解説|ジョナサン・ハイト+トビアス・ローズ=ストックウェル「ソーシャルネットワークの暗黒心理──すべてがおかしくなっているように感じる理由」
SNSを利用していると、数日に一度は炎上を目にし、誰かが誰かを悪く言っているのを見かけることになるだろう。私たち人間の生きている環境は、インターネットによって劇的に変化した。
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2021/06/04
解説 |
elabo編集部

SNSを利用していると、数日に一度は炎上を目にし、誰かが誰かを悪く言っているのを見かけることになるだろう。私たち人間の生きている環境は、インターネットによって劇的に変化した。その変化は人類史というスケールから見ても相当に大きいもので、その変化のなかには残念ながら、期待されていたのとは異なる、有害な部分も含まれていた。このことには皆、薄々気づいているのではないだろうか(elabo編集部「議論したくない大学生」2021年5月14日配信)

 

今回訳出した「ソーシャルネットワークの暗黒心理──すべてがおかしくなっていくように感じる理由」は、社会心理学者のジョナサン・ハイトとトビアス・ローズ=ストックウェルが『The Atlantic』誌に書いた記事である。2019年の時点で、インターネット、とりわけソーシャルメディアがどのような時系列で、私たちの生活の何を根本的に変えたのかについて、明快に論じている。

 

Photo by Adem AY (Unsplash)

 

ハイトたちの文章のイントロダクションは、背景を共有しない日本人には読みやすいものではないが、主張自体はシンプルだ。いつの時代にも、グループをつくって争いたい人たちは存在していて、争いのきっかけとなる炎上のタイミングを狙っているということである。ハイトによれば、アメリカの憲法をつくったジェームス・マディソン(1751〜1836)らもそのことに自覚的であり、民主主義が炎上でめちゃくちゃにされる危険を懸念していたそうだ。

 

それでもアメリカの建国時は、物理的な距離が(アメリカ合衆国はそのなかに欧州がすっぽり入るほどの大きさである)、各州の派閥争いに国ごと巻き込まれることを防いでいた。しかし、その状況はご想像の通り、インターネット、特にソーシャル・メディアの出現によってドラスティックに変化した。炎上が大好きな放火魔たちが大活躍できる状況になってしまい、あのドナルド・トランプが大統領になるに至ったのである。

 

Photo by Annie Spratt (Unsplash)

 

ハイトによれば、ソーシャルメディアの問題とは、人々が多くの人々とつねに繋がっていることにあるのではなく、他人からの評価を求める競技場になっている点にある。この他人の評価を競い合う競技場では、怒りがとても効果的に評価を集める。すでにさまざまな研究によって、SNSで、怒りがからむ投稿がバズることが明らかになっているそうだ。

 

「怒り(炎上)製造機」とも言えるソーシャルメディアは、2010年前後のユーザーエクスペリエンス向上のためのいくつかの技術革新によって、さらに広範囲に怒りを伝播する道具になったと言われる。その技術革新には、私たちにお馴染みの「いいね!」ボタン(2009)や、リツィート機能(2009)などが含まれる。詳細はぜひ本文(前編)をご覧いただきたいが、こうしたステップを踏んだ結果、2013年は「私たちがインターネットを破壊した年」になったのだそうだ。

 

Photo by Karsten Winegeart (Unsplash)

 

インターネットは同時に、私たち人間の知識のあり方を変えた。情報全般を100年以上前の情報、50年程度前の情報、ごく最近の情報と3種類に分けた場合、タイムラインに流れる他人の猫の投稿や特報記事に夢中になっている私たちは、ごく最近の情報のみでつねに頭がいっぱいな状態になっている。実際には現在インターネットのおかげで、私たちは、歴史上いまだかつてないほどに古い情報にアクセス可能になっているにもかかわらず、むしろ古い知識を知らない人間のほうが生産されているということだ。

 

古い情報は、必ずしも新しい情報よりも優れているということではないが、少なくとも長い年月をかけて濾過されている分、重要な可能性が高いという点がポイントである。こうしたネット環境が必然的に生み出す、知識を偏らせる傾向は、生まれた時からインターネットがあった世代に大きな影響を与えているのではないかとハイトは考えている。

 

このようにSNSが炎上生産装置になり、ネットが「現在」にしか興味のない人間をつくりだすようになったプロセスを知ることで、私たちは、対応策を考えられるようになるとハイトは述べて、実際に3つの具体的な対策を提案している。

 

2019年に記されたこれらの対策には、すでにインスタグラムやTwitterで試されたものも含まれている。こうしたソーシャルメディア進化論を知ることは、ユーザーである私たちが、現在の情報環境のなかで、もっと楽しく、他人への優しさを失わずに生きるために不可欠だろう。長めの記事だが、ぜひ本文にも目を通し、考えていただきたいと思う。

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2021/06/04
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写真 | 森岡忠哉
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