BTSはK-POPなのか?――BTSが「本物」と言われる理由
「BTSはK-POPに属するのか?」という問題があるらしい。意外にもK-POPファンとARMY(BTSファンの総称)たちの間で長い間活発に議論されてきた題材だという。BTSはK-POPというジャンルのなかで、どこか異色の存在であるようだ。
アーティスト、アイドル、若者の代弁者。彼らが「本物」である理由。
culture
2021/06/18
執筆者 |
林玲穂
(はやし・あきほ)

1993年生まれ。神戸大学人文学研究科博士後期課程に在籍中。専門は観光を美的行為として捉える観光美学。最近は得意な韓国語を活かして韓国メディアコンテンツも研究中。BTSオルペン。共著書=『他者をめぐる人文学──グローバル世界における翻訳・媒介・伝達』(神戸大学出版、2021)など。

「BTSはK-POPに属するのか?」という問題があるらしい。意外にもK-POPファンとARMY(BTSファンの総称)たちの間で長い間活発に議論されてきた題材だという★1。BTSはK-POPというジャンルのなかで、どこか異色の存在であるようだ。

 

この問題について、BTSのリーダーであるRMは先日行われた新曲「Butter」の記者会見で次のように答えている★2。

 

「多くの創造的芸術がそうであるように、創造の過程ではなく、そうした過程を経て(全体的な)形態が見えるように、on-going(現在進行形)の状態であるBTSが単純にK-POPかどうかという答えは正直わからない。だけど、自分たちが最善の活動を続けていった先に、いつか評論家たちによって語られるだろうと思う。」

 

「Butter」発表に合わせた記者会見
(設定>字幕>自動翻訳>日本語で、日本語字幕が表示されます)

 

RMの解答からは彼らの音楽が「K-POPとは異なる音楽になっていく可能性をもっている」とも読み取れる。韓国ではすでにこうした「BTS」らしさを表現するために「K-POP」ならぬ「BTS-POP(BTS-팝)」という用語が登場している。そこで、今回はBTSがデビュー当時どのようなコンセプトを掲げていたのか軽くおさらいしながら「BTS-POP」について垣間見ることにしよう。

 

BTSがデビューした2013年頃は、K-POPアイドルの海外進出が当たりの時期であった。例えば、グループの半分を中国人メンバーで構成したEXO(2011年デビュー)が挙げられ、デビュー当時は韓国で活動するEXO-Kと中国を中心に活動するEXO-Mに分かれていた。

 

左:EXO-K、右:EXO-M

 

 

グローバル進出を目指すK-POP業界の傍らで、BTSは全メンバーが韓国人であるだけでなく、訛り(사투리)が抜けきれないソウル特別市以外の地方出身者で結成された。「シンセポップや「フックソング」(サビで同じ言葉やリズムを繰り返す曲)といわれるEDM一辺倒だったアイドル音楽」★3とは一線を引いて、「ヒップホップアイドル」という異例のコンセプトで登場したのだ。

 

デビュー当時のBTS(『2 COOL 4 SKOOL』2014)

 

「ストリートやフッド(hood:貧民街を意味するスラング)」★4をルーツに持つヒップホップと、ビジュアル重視のアイドル、真逆な性質をもつ2つの存在が果たしてひとつになりえるのか?という批判は、特にヒップホップ界から投げかけられた。

 

ヒップホップ歌手から質問を受けるRMとsuga

 

「女装のような化粧をしてヒップホップまがいの音楽活動をしているのでは?」といった厳しい批判の声に対して、ラップ歌手出身のRMとsugaは、アイドルの大衆性に違和感を覚えるのは確かだとしながらも、「アンダーグラウンドとメジャーの架け橋になりたい」と説明する。「多くの観衆に自分の音楽を聴かせたい」と言葉にする彼らの姿からは、たとえ正統な方法ではないと批判を受けようとも、既存の枠組みに囚われまいとする姿勢が伺える★5。

 

 

こうして道なき道を歩みだしたBTSは、徐々に、それまで主張を持たないと揶揄されたK-POPアイドルとは異なる評価を受けるようになった。なかには、「完璧な造形美に熱狂しながらも、人工物のような、ニセモノのような部分が引っかかる」K-POPアイドルとBTSを区別する海外のファンも存在しており★6、BTSの7人が独自の「造形美とともに本物らしさをもってやってきた」と主張する★7。BTSの発信するメッセージが「本物」として韓国国内のみならず世界各地で共感を得ているといえるだろう。

 

それではデビュー曲、「No more dream」(2013)の歌詞を一部みてみよう。

 

大学は心配しないで 遠くても行くつもりだから*(대학은걱정 마멀리라도 갈거니까)」

(*韓国では「イン・ソウル」(ソウル市内にある)大学を目指すことがステータスの高い目標とされている)

わかったよ 母さん 今 自習室行くってば(알았어 엄마 지금 독서실 간다니까)」

 

大人たちや両親は 型にはまった夢を押しつける(어른들과 부모님은 틀에 박힌 꿈을 주입해)」

将来の希望 ナンバーワン 公務員?*(장래희망 넘버원 공무원?)」

(*就職難の韓国においては収入が安定している公務員が理想の就職先となっている)

 

生きる術がわからない 飛び方もわからない 決断する方法もわからない もう夢見る方法さえわからない(살아가는 법을몰라 날아가는법을 몰라결정하는 법을몰라 이젠꿈꾸는 법도 몰라)」

お前の夢はなんだ?(니 꿈은 뭐니)」

なんでずっと別の夢をみろというんだ 俺にかまうな (왜 자꾸 딴 길을 가래 야 너나 잘해)」

 

 BTS「No more dream」(2013)

 

誰もが同じ夢や目標をもってしまう現状に不満をぶつけると同時に、そうした価値観を生み出す社会に対して痛烈な批判を行っている。BTSの研究者として知られるイ・ジヨン氏(世宗大学教授)は、そうした社会批判的メッセージが韓国以外でも「共感」を引き起こす理由について次のように分析した。

 

「なにより新自由主義的な競争体制が地球的様相を見せているという現実が原因だといえる。深刻化する競争、就職難、正当ではない富の分配、それに伴う生活への不安と憂鬱さは、けっして私たちの国(=韓国)だけの問題ではなく全世界的に現れる普遍的な現象なのだ。」★8

 

BTSの歌は、過酷な学歴競争社会を生きる韓国の若者たちに限らず、同じ価値観に苦しむ全世界の若者の声を代弁しているのだ。

 

現在、ヒップホップスタイルを前面に出してはいないものの、彼らの力強いメッセージは「LOVE YOURSELF(自分自身を愛そう)」のような、直接的で、よりグローバルに共感可能なものへと変化を遂げている。On-goingな(現在進行形の)彼らの音楽は、変化を続けながらも既存の価値観にとらわれない姿勢を貫いているのである。自らの理想を追求し、相異なるものの架け橋になろうとする姿は、BTSの成り立ちから現在に至るまで通底している。

これこそが「BTS-POP」だといえるだろう。

 

BTS WORLD TOUR "LOVE YOURSELF" in JAPAN, 2019

 

さて、「BTSがK-POPなのか」問題は、単に彼らが世界中で受容され、英語の歌詞を流暢に歌うという理由から生じているのではないとわかっていただけたのではないだろうか。

 

ところで、BTSの成功要因のひとつであるプロフェッショナル性は、K-POPの特徴であるアイドル育成システムが基盤にあったからだという見方も存在する★9。過酷な練習量を強いる徹底したシステムがBTSのベースにあるのは確かだ。さらに、こうしたK-POP的システムからファンダムの存在を無視することはできないだろう。

 

次回は、ARMYたちの実体を明らかにしながら、ほかのK-POPグループとの違いだけでなく共通点にも注目することで、より詳しくBTSを紐解いていくことにしたい。

★1──홍석경『BTS길 위에서』(어크로스、2020)、ホン・ソクキョン『BTS  道の上で』(オクロス出版、2020)。6月11日に邦訳本『BTS  オン・ザ・ロード』(桑畑優香訳、玄光社)が出版された。

★2──( )内の補足を加えた。拙訳。

★3、4──キム・ヨンデ『BTSを読む──なぜ世界を夢中にさせるのか』(桑畑優香訳、柏書房、2020)

★5──動画撮影者のブログはこちら。https://www.smilingseoul.com/b-free-disrespecting-bts/

★6──미묘「K팝이 아니다,BTS-팝이다!」(2018)https://www.donga.com/news/Culture/article/all/20180916/92017678/1(最終閲覧日2021年6月18日)拙訳。

★7──미묘、同上、拙訳。

★8──이지영『BTS예술혁명 방탄소년단과 들뢰즈가 만나다』(파레시아、2018、イ・ジヨン『BTS芸術革命──防弾少年団とドゥルーズが出会う』)、拙訳。また、( )内は筆者による補足。

★9──홍석경『BTS길 위에서』(어크로스、2020)

culture
2021/06/18
執筆者 |
林玲穂
(はやし・あきほ)

1993年生まれ。神戸大学人文学研究科博士後期課程に在籍中。専門は観光を美的行為として捉える観光美学。最近は得意な韓国語を活かして韓国メディアコンテンツも研究中。BTSオルペン。共著書=『他者をめぐる人文学──グローバル世界における翻訳・媒介・伝達』(神戸大学出版、2021)など。

クラウドファンディング
Apathy×elabo
elabo Magazine vol.1
home
about "elabo"