いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。
韓国でIZ*ONEとして2年6カ月の活動期間を終えて帰ってきた宮脇咲良さん、矢吹奈子さん、本田仁美さん。日本の芸能界とは異なる体質の韓国の業界で、アイドル活動をやり遂げて帰ってきた。おかえりなさい!
IZ*ONEは、韓国のサバイバルオーディション番組「PRODUCE101」シリーズのシーズン3、「PRODUCE48」で結成されたガールズグループである。12人のメンバーのうち3人が最初に挙げた日本人メンバーであり、AKB48グループのメンバーでもある。活動の途中では、番組側の投票操作問題の発覚などによる活動休止もあったが、2018年の結成から予定通りの2年半の活動を成功させ、惜しまれつつ4月28日に解散した。
筆者は元々K-POPの曲をよく聴くほうだったので、HKT48やAKB48の存在を知りつつも熱心にフォローしていたわけではない。その意味で彼女たちが韓国に行く前後を厳密に比較できているわけではないのだが、IZ*ONEで活動していくなかで、新しい展開を見させて貰えたように感じている。今回はとくに宮脇さんに注目しながら、K-POPとJ-POPの違い、さらにはその両者を融合させることの可能性について考えてみたいと思う。
そもそも、AKB48グループには、日本の保守的なアイドルのイメージがあるように思う。2005年に始まった秋元康プロデュースのアイドルグループは、その後の日本のアイドル像を決定づけ、派生グループを次々に生み出し日本の芸能界で存在感を誇ってきた。そんな日本のアイドルの代表的存在とも言えるAKB48のメンバーが、韓国のサバイバルオーディションに参加すると聞いた時、驚いた人も少なくなかったのではないだろうか。筆者もそのひとりである。
筆者がこの挑戦に驚いたもうひとつの理由は、そもそもK-POPとJ-POPに文化的な違いがあることは自明なことだと思われたからだ。実際「エピソード1」の動画でも、日本では可愛さや愛嬌が大事とされていてキレの良いダンスなどは重視されないのに対し、韓国では高いパフォーマンス力が大事とされていることが日本のアイドルの口から述べられている。
とはいえ韓国のアイドルについても愛嬌は重要な評価ポイントになっている。「エギョ(愛嬌)」という言葉は韓国アイドルを語る上で欠かせない言葉である。結局のところ、「愛嬌」の捉え方が日本と韓国では違うのではないかと筆者は考えている。できないという未熟な姿、あるいはできなかったことができるようになる姿に、日本のアイドルファンは「愛嬌」を感じ、共感しているのではないだろうか。
オーディションに挑戦する前にすでに日本で7年のキャリアを積んでいた宮脇さん。最初から能力的に高く評価されていた宮脇咲良さんでさえ、K-POPではまず初めから「完璧さ」が求められることには、苦労したと語っている。オーディションの最中も韓国メンバーとの実力差に悩んだそうだ。
「日本のアイドル(48グループ)と韓国のアイドルでは求められているものが違うかなって思いますね。細かいところで言うと、48グループはサビは合唱したりだとかソロパートっていうのがほとんどないんですよね、AメロBメロも3人で歌ったりとかってのが多いんですね。」
「韓国はほとんどの曲がソロで構成されていたりとか、そう言う部分でもすごく高いレベルを韓国のアイドルは求められてるなって感じますね。」
「kemioの耳そうじクラブ #51 ゲストは宮脇咲良さん! IZ*ONEでの活動について徹底ホリホリ!」より
当初は実力差に悩んだという宮脇さんだが、日本のキャリアで培ってきた表現力が韓国でも評価されるようになるにつれ、自分の過去も肯定できるようになったとも語っている。筆者は、このように宮脇さんが元々自分が持っている経験や能力を認めることによって、さらに能力を発揮できるようになった背景には、韓国アイドルの仲間から学んだマインドがあったのではないかと、NHKでのインタビューを見ていて気付かされた。
「(日本では)今まで謙虚でいないといけないと思っていました。自信をもつと成長が止まるので、自分に対して自信を持つことは悪だと考えていたんですけど、韓国のメンバーは生まれ変わっても自分になりたいと答えていて自分を愛せることって素敵だなと思った」と宮脇さんは語っている。
「そこから自己肯定感と自己満足の違いに気づき、今は自分の頑張りも素直に褒められるようになった」という宮脇さんの言葉をふまえて、チッケム(=ライブや歌番組に出た時に全体を写している動画とは別にメンバー1人にフォーカスした動画)を見ると、確かにAKBとして活動して時とは一味違ったクールさ、そして自信が溢れているように伺える。
日韓関係は政治的にもまた一般人レベルでも何かといざこざが起こりがちで、過去の歴史やライバル関係が前提となって、なかなか素直に互いの良さを認められないような心理が働きやすいようにも見える。IZ*ONEについても、楽曲やプロデュース面で、日韓の文化が融合し、JK-POPという新たな展開があることが期待されたが、蓋を開けてみれば、それぞれの曲はあくまでも日本向けJ-POP、韓国向けK-POPとして作成、発表され、グローバルには後者が圧倒的に成功するという結果になってしまった。
しかし、韓国でのアイドル活動を経て、新たな魅力を発揮できるようになり、「これからも世界に向けて発信できるような人になりたい」と希望に満ちて語るアイドル宮脇咲良の姿は、JK-POPの可能性をすでに私たちに見せてくれているように思う。業界が動く以前に、韓国人がJ-POPを聴き、日本人がK-POPを聴くことによって私たちはすでに変化を始めている。実際、若者のカルチャーの場所では、偏見なく互いに学び合うことでさまざまな可能性が広がっているように感じる。
また、新たな場所でチャレンジしたこと自体が、宮脇さんのアイドル人生にとって決定的なことだったようにも思われる。48グループ時代からのファンにとっては複雑かもしれないが、彼女がこれまでの活動を一つひとつ終わらせ、新たな挑戦を始めることは、一度自分の環境を離れて挑戦した経験あっての決断であると思われる。その姿勢は、ファンに留まらずたくさんの日本の若者を励ましてくれるはずだ。
いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。