近年、デジタル化が急速に進み、人間がリアルタイムで交流できるさまざまなオンライン空間が生まれている。ヴァン・ディーク(Van Dijck, 2013) は、このようなオンライン空間を「メディエーター(媒介者)」と呼んでいる。それは、パーソナライズされた設定やアルゴリズムを媒介して、私たちの行動や視覚に影響を与えるからだ。この記事では、TikTokのアルゴリズムが私たちにどのような影響を与えるのか、またその潜在的な副作用について分析してみたいと思う。メディエーター(媒介者)は、私たちの生活や社会に大きな影響を与える。ソーシャル・プラットフォームは、私たちをそのコンテンツに引きつけておくために、時には意図せずにユーザーに有害な影響を与えることもある。また、それは、個人が従うべき特定の基準を作るのにも役立っている。それゆえ、私たちは以下のように言うことができるだろう。社会性が技術を形成するのと同様に、技術が社会性を形成するののであり、ユーザーの反応からこのことを多少なりとも発見することができる(Van Dijck, 2013)と。この記事では、TikTokを、美の誤った基準を設定し、若い世代に試練をもたらす、潜在的に有害なアプリとして考察する。
TikTokは、中国で生まれた動画共有ソーシャルメディアである。TikTokという名前になる前はDouyin〔抖音〕という名前のアプリで、ByteDance社が所有していた。Douyinは主に中国やその他のアジア諸国で知られていたが、Musical.lyという、より国際的なバージョンもあった。このプラットフォームでは、ダンス、歌、コメディ、教育ビデオなど、さまざまな短編ビデオが提供されている。動画の再生時間は、数秒から3分程度だ。これらのメディアが大成功を収めた後、ByteDanceはMusical.lyを買収し、Douyinと統合して現在のTikTokを生み出した。TikTokでは、料理、ライフハック、美容、ダンス、コスプレなど、さらに多様なジャンルのショートビデオが制作されている。今日では、多くのトレンドがTikTokで設定されている。もちろん、これらのトレンドを好ましく思っていない人もいるが、いずれにしても私たちは、TikTokが現在手に入れつつある圧倒的優位とTikTokが社会を形成している方法自体を、拒むことはできない。
アルゴリズムとは、指定された計算に基づいて意思決定を行うための計算プログラムである(Tufekci, 2015)。アルゴリズムは、人間の目には直接見えない一連の指示に従う。ソーシャルメディアでは、アルゴリズムが私たちの関心事を把握し、ニュースフィードをパーソナライズする。アルゴリズムは、私たちが好きなものやシェアしたいもの、自分の投稿、トレンドになっているコンテンツなどを選別する。これらのアルゴリズムは、エコーチェンバー〔同じ傾向を持つ意見だけが反響するネット空間〕を作りだし、異なるタイプのコンテンツに触れない限り、そこから抜け出すのは難しいかもしれない。また、それは、目にするコンテンツによって気分が左右されたり、視点に影響を与えたりすることもある。全体として、アルゴリズムは、計算、データ処理、自動推論に基づいて作動する。私たちが意識していてもいなくても、アルゴリズムは存在し、私たちの生活の一部となっている。
TikTokのWebページによると、彼らは、よりパーソナライズされた体験を演出するために「ForYouページ」を利用している。彼らは、私たちが興味を持っているコンテンツを提供してくれる。それは、お気に入りのインフルエンサーからのものであったり、興味を持ちそうなまったくランダムな人からのものであったりする。「For Youページ」は、完全にパーソナライズされた、各個人に固有のものだ。TikTokが言うように、「レコメンデーション・システムは私たちを取り囲んでいる」。私たちはシステムから逃げることはできないが、それでもそのことを人々に説明する必要がある、と彼らは説明している。したがって、ユーザーは、この現象について、より意識し、教育されることになる。
TikTokは、このプラットフォームでは、「For Youページ」のシステムにはいくつかの要素があると説明している。1つ目は、ユーザーのインタラクション、つまりユーザーが「いいね」「シェア」「フォロー」「コメント」「投稿」したものだ。2つ目は、動画情報、特定の音、ハッシュタグ、キャプションである。そして最後に、デバイスとアカウントの設定(ユーザーの位置情報や言語設定など)が挙げられる。
これらの情報はすべて、アルゴリズムによって収集・処理され、個々のユーザーにとって最も価値のあるコンテンツを提示するために使用される。例えば、アルゴリズムは、ユーザーが動画を見るのに費やした時間や、最後まで見たかどうかを考慮する。これは関心の高さを示すものと捉えられ、アルゴリズムは提供を続ける。他の多くのプラットフォームでは、アルゴリズムは、人気クリエイターのコンテンツや、最も視聴されたコンテンツを提案する。しかし、TikTokではそのようなことはなく、誰でも有名になることができる。
また、特定のクリエイターをフォローしたり、カテゴリーやサウンドなどのオプションを選択することで、ユーザーは自分の興味を絞り込むことができる。また、興味のないものを非表示にしたり、特定のクリエイターを非表示にしたり、不適切なコンテンツを報告したりすることもできる。これらの機能は、私たちが自分だけのフィードを作るのに役立っている。
しかし、それらの機能が私たちを制限することもある。繰り返される日常のなかで、ほかの人の意見や経験を見ることができず、エコーチェンバー効果が生じてしまうのだ。TikTokは現在、この問題を解決するために、ユーザーが気に入った動画とアルゴリズム的に類似した動画だけでなく、さまざまなコンテンツをユーザーに提供している。TikTokは、ユーザーにフィードの多様性を提供することで、新しいカテゴリー、新しいクリエイターを楽しみ、異なる視点を知ることができるようにしている。これのおかげで私たちは、ユーザーの好みや、ユーザーの間で全体として何が人気なのかといったデータを収集することができるのだ。
YouTubeのコンテンツ制作者であるSalem Tovarなどの一部のインフルエンサーは、TikTokが美のアルゴリズムを使用していると主張している。それは、美しければ美しいほど、その人はアプリでチャンスに恵まれるということだ。左右対称な顔やその他の特徴を持っていれば、TikTokでの成功が保証されるということである。これは、チャーリー・ダミリオのようなTikTokerが突然メディアに登場し、有色人種が考案したダンスで瞬く間にヒットした理由を説明しているのかもしれない☆1。
美のアルゴリズムを最初に発見したのは、TikTokerのBenthamiteだ。彼の主張は、顔面美人予測(FBP)を世間に紹介したリン・リャンら(Liang, 2018)の研究によって裏付けられている。リャンらは、さまざまな資質とラベルを持つ5,500枚の正面顔画像セットからデータを収集し、「美のスコア」に関する詳細な情報を割り出した。プログラムは、人々の顔のさまざまな特徴を調べるだけで、特定の国や文化におけるその人の美しさを判断することができる。リャンら(Liang, 2018)によると、データセットの信頼性は、各種の特徴と予測因子の組み合わせを使用して決定される。そして、特定の文化や地域で人気のあるものを発見するために使用されるツールである予測因子は、ほかの深層学習の手法と組み合わされている。
プラットフォームは、この計算プロセスをアルゴリズムに用いることで、ある人が特定の国で美しいとみなされるかどうかを判断することができる。アプリが美しいと判断した人は、有名になり、より多くの再生回数というチャンスを得るのだ。分類上の種類と美という両方のアルゴリズムを使用することで、私たちは、同じ特徴を持つ人々をより多く見るようになる。こうして、私たちは、多様性の欠如を目の当たりにしているのだ。なぜなら、同じ彼の特徴が絶えず現れ、似たような顔の構造を持つ人ばかりが表示されることになっているからである。このことは、プラットフォーム自体をより多様性の乏しいものにしている。
その一例が、ビートに合わせて頭を揺らすだけで大人気になったベラ・ポーチ(Bella Poarch)だ。YouTubeやTikTokのコメンテーターの多くは、彼女のことが特に好きではないため、なぜこれほどまでに人気が出たのか不思議に思っている。しかし、鼻が小さく、目が大きく、顔が小さく、唇がふっくらしていることは、多くの国で美しいとされている。要するにベラ・ポーチは、社会やTikTokの美の基準にぴったり合っているように見える。あなたがこの美の基準自体に同意しないとしても、彼女の動画の再生回数は嘘ではない。そして、これらの基準は、TikTokで多くの不健康な美のトレンドが発生することにも貢献している可能性がある。
Salem Tovarは、TikTokのアルゴリズムだけでなく、美の基準に対する社会的な強迫観念についてのビデオを制作している。社会的に構築されたこのような基準は、ソーシャルメディア・ユーザーを自分自身との比較に導き、自分の美しさやボディイメージを評価することにつながる。その結果、自尊心に大きなダメージを与え、鬱病へと導くこともある。
最近のTikTokのトレンドは、スリムで引き締まったルックを見せるために、ウエストをシンクロさせるというものだった。同様に、携帯電話のカメラの効果を「通常モード」と「ミラーモード」の間で切り替えるというものもある。「通常モード」と「ミラーモード」の両方で左右対称に見えれば、その人は美しいとみなされるのだ。ほかにも、鼻が小さいことをアピールしたり、眉毛が整っているかどうかをフィルターを使って判定したりするものもある。これらの動画の下のコメントは、そのような基準が、私たちの自己評価を荒んだものにし、有害な環境を作りだしてしまうことを示唆している。
私たちは自分自身の社会的規範に責任を持っている。自分たちのやり方や信念を変えなければならないのは、私たち人間のほうなのだ。Tovarが言うように、「私はただ、もっと多様性を見たい。本当に才能のある人を見たいのです」。 私たちは、アルゴリズムがもたらす害悪を認識し、こうした問題にぶつかったときには、さらに教育される必要がある。アルゴリズムは目には見えないが、存在している。Tufekci(2015)が論じているように、「アルゴリズムによる操作は、公的なものでも、目に見えるものでも、簡単に見分けられるものでもない」。だからこそ、個々人は簡単に影響を受けてしまうのだ。
この記事の目的は、TikTokのアルゴリズムがもたしうる影響を示し、その仕組みを明らかにすることだ。全体像を見ることで、私たちは、取り組まれるべき現在進行形の問題を見ることができ、適切な解決方法を思いつくことができる。また、この記事の目的は、アプリをスクロールする際の注意点や、効率的な使い方、潜在的なリスクへの注意点などを読者に伝えることだ。さらに、このアプリを使い続けるかどうかも、読者やユーザーが決めることなのである。
自分自身の結論を出せるかどうかは、個々人に掛かっている。ソーシャルメディアは自らで公共の言説を形成することはないかもしれないが、それでも公共の言説をかたち作っている(Gillespie, 2018)。私たちは疑問を持ち続け、プラットフォームの影響力に抵抗する必要がある。TikTokのアルゴリズムは危険なの? いや、そんなに単純な話ではない。各プラットフォームは特定の方法で私たちに影響を与えるが、情報を得ておくことは、それらの影響に対処するために役立つはずだ。
訳注
☆1──現在、白人TikTokerによる文化盗用をふまえ、黒人TikTokerによるボイコットが起きている。elabo編集部「MCメーガン・ジー・スタリオンが全ての女性に贈るエンパワメント──自分にふさわしいものを求め続けて」(2021/07/02)
☆2──最新の動きとしてはノルウェー政府は、SNSのインフルエンサーに対して、プロモーション目的の投稿画像にリタッチした場合に、それを表記することを法的に義務づけた。
参考文献
COPYRIGHT
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Diggit Magazine, COURSE Digital Culture and Society, ARTICLE 23/06/2021
https://www.diggitmagazine.com/articles/how-does-tiktok-algorithm-work