#youth|Z世代座談会:「お笑い」は私たちの「今」を映し出す!
最近「お笑い」で「第7世代」と呼ばれる世代が人気になったことで、「誰も傷つけないお笑い」という言葉が登場したり、「お笑い」の中に世代間論争が出てきたり、テレビから過激なお笑いが消えていることなどが注目されるようになりました。
#第7世代 #イジる #「かわいい」より「おもしろい」
culture
2021/08/06
座談 |
elabo同人

ヨセフ|22歳。K-dotを敬愛する優しきHIP-HOPオタク。映画もアートも読書も好き。自称優柔不断。

早希|20歳。自由を愛する、生粋の大阪人。甘いものが嫌いで、辛いものが好き。自他ともに認めるAB型。

希麗|20歳。滋賀県産。アジアを愛し、ハートとエネルギーに満ちたフェミニスト。

みっさん|21歳。経済学部出身。行動経済学を学んでいる、めっちゃ明るいサブカル好き。

真嶋|21歳。スパイスカレーとパンを愛するつぶあん派の就活生。マイブームはウマ娘プリティーダービー。

海聖|いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

お笑い、どれくらい観る?

早希

最近「お笑い」で「第7世代」と呼ばれる世代が人気になったことで、「誰も傷つけないお笑い」という言葉が登場したり「お笑い」のなかに世代間論争が出てきたりテレビから過激なお笑いが消えていることなどが注目されるようになりました。elaboにも「お笑い」に関心があるメンバーが多く、いろいろな立場の人が一緒に考えることができる問題だと思ったので、今回座談会というかたちで「今のお笑い」について話し合うことになったわけですが、まず座談会に参加するメンバーがどれくらい「お笑い」観ているか、確認しましょうか。

ヨセフ

僕、めっちゃ観ます。

 

みっさん

自分もM-1とか観させてもらっています。

 

海聖

僕、ぜんぜん観ないです。

 

真嶋

私も観ないでーす。

 

希麗

めっちゃ観るかって言われたら、あんま観ないですね。

 

早希

じゃあまず、好きな人からいきますか。どんなとこが好きかとか……。

 

みっさん

自分がおもしろいと思う芸人とかだと、たぶんけっこう、お笑い第5世代とか第6世代が多いって感じですかね。例えば、ナイツさんとかNON STYLEさんは好きでよく観てますね。

 

早希

私も初めて漫才をちゃんと観たのはノンスタのM-1やった気がする、めっちゃ懐かしい……。

2008年M-1優勝ネタ「ホラー」/NON STYLEチャンネル/YouTube

みっさん

あ~なるほど、そのあたりかな? 自分らの世代は。

 

ヨセフ

僕は、劇場めっちゃ行くとかそんなんはないんですけど、漫才もコントも好きで、吉本新喜劇も小・中学校の頃は観てたかなと。まぁ父がそもそも好きで、周りも好きな人が多くて。賞レースも好きでひな壇とかも好きだし、「お笑い」っていう名前がついたら、とりあえずは観とこ、みたいな感じですかね。

 

早希

私は、めっちゃお笑いを観ます。大阪やからっていうのはあるかもしれへんけど、新喜劇はバイブルやで、って言われて育ってる。見取り図とか、ザ・大阪芸人って感じの人が好きです。

 

海聖

でもなんか、珍しくないですか? 大阪住みでもぜんぜん新喜劇とか行ったことない人とかいるじゃないですか。

 

早希

そうそう、劇場とかに行ったことない人がけっこうおるらしい。テレビで観れるってなったら、わざわざ観に行かん人もおるんちゃうかな。ちなみに私はとくに漫才を観ます。もうM-1の時期になったら、なぜか自分が緊張するくらい。

 

ヨセフ

若手芸人やん(笑)。

 

早希

もう夏くらいからめっちゃソワソワする(笑)。

 

ヨセフ

逆にお笑い観ない人とかはどうなんですか? ここのメンバーって関西出身の子多いけど。

 

海聖

いわゆるお笑いっていうお笑いは全然見観ないです。うちのお兄ちゃんは、ダウンタウンさんとかがめっちゃ好きで。ずっとお2人で喋ってる「ガキ使トーク」とかあるじゃないですか? 昔やってたやつ。あれをラジオみたいにずーっと聞いてるタイプなんですけど、そういう漫才的なものはあんまり自分のなかでおもしろくなくて。けどドッキリとかコントとかは好きですね。渡辺直美ちゃんのコントとか、ダウンタウンさんの「ごっつええ感じ」とか、あと志村けんさんがいたドリフターズのコントとかはめっちゃ好き。

 

ヨセフ

真嶋さんとかどうですか?

 

真嶋

私はべつにお笑いが嫌いじゃないけど、めっちゃ好きってわけでもないという立場で、私だけこのなかで出身が関西とはまったく違うっていうのもあるのかな? 昔ノンスタがめちゃくちゃ好きやった時期があったんですけど、小5ぐらいとか。そのときにDVDを借りて観たりしていたんですが、ほんとにここ数年は全然観なくなった。いわゆる第7世代っていうお笑い芸人さんのなかで、たぶん私がネタ観たことある人はほとんどいないんですよね。なんかテレビ出てるんやなーってくらい。テレビもないから、テレビに出ていることをネットで知る、みたいな感じで。なんか身も蓋もないこと言って申し訳ないんですけど(笑)。

一同

(笑)

 

真嶋

まず、テレビが好きじゃないからテレビを置いてないんですよね、家に。もうネットでいいかなって思うことがいっぱいあって。実家に帰ってテレビがついてたら観るけど、べつに観なくてもいいって感じやから、必然的に芸人さんを観ることは少ないかなという感じ。なんかテレビ的な笑いが、あんまり受け付けないところはちょっとあるんかな。べつにお笑いは嫌いじゃないんですけどね。希麗ちゃんとかはどう?

 

希麗

えーと、私、もしかしたら観ているほうなんかなって思いました(笑)。ひな壇とかけっこう好きなんですよね。お笑いは日常の文化のなかに入っているから、好きとか嫌いとかじゃなくて、当たり前にそこにあるものっていう感じかな。当たり前のように、休日のお昼には新喜劇観るし……全部当たり前っていう感じ。最近はけっこう芸人さんのYouTubeを観たりとかします。とくにニューヨークのYouTubeが好きで......。

ヨセフ

けっこう芸風キツいの観るんやな(笑)。要するにお笑いを観る子は、テレビの影響もあるし、お笑いが当たり前な環境としてすでにあった、みたいなことかな。

 

希麗

そうですね、関西だと、日常を生きていてもお笑い前提で会話が進んだりするじゃないですか? 「オチがある・ない」とか、「ツッコミする・しない」とか。「イジる・イジられるとか」も含めて。

笑える基準・笑えない基準

早希

みんながいろいろ観ているなかで、これは笑えるけど、これは笑えへんっていう基準を教えてください。あ、私から言わないとですね! これはさっきもみなさんの話聞いていて思ったんですけど、私のなかに、笑える基準より、笑えない基準のほうが明確にあって、「志村けんのバカ殿様」やったかな? コントに食べ物を使う笑いがあったんですよ。あれを観たときに、まだ小学生低学年くらいやったけど、幼いながらも「さすがにこれは笑えん」って思ったんですよ。おもしろいとかよりも、それって誰が観ても良い気しやんよなって。それ以来、「バカ殿」は笑えなくなったかな。私は漫才がめっちゃ好きで、漫才のマイク一本で勝負する感じがカッコイイから。そしてドッキリとかもあんまり笑えんけどなぁって思います。わかりやすい例だと、落とし穴はおもしろくないかな。

とんねるずのみなさんのおかげでした 全落・水落オープン 予告編/ponycanyon/YouTube

一同

(笑)

 

早希

人落ちて、おもろい? って純粋に思っちゃう。

 

みっさん

それは思うなぁ、たしかに。

 

ヨセフ

なんか前の話と関係するねんけど、笑う基準と笑えない基準を考えると、早希ちゃんが言ってたみたいに、笑えない基準のほうが明確で、キーになる気がする。反対に、笑う基準のほうには、周囲の環境というか、内輪ノリみたいなんがあるんよね。

 

一同

あ~

 

ヨセフ

たぶんその「わかり合えてる」みたいな感覚からおもしろさって生まれると思う。ドッキリは逆で、裏切られたことでおもろいってなる。言葉を変えるとセオリーを無視したり、予定調和を壊すようなことを指すのかな。それで言うと僕、ザコシ(ハリウッドザコシショウ)とかめっちゃ好きで……。

ハリウッドザコシショウのものまね30連発SEASON11-1ハイライト/ザコシの動画でポン!/YouTube

一同

(笑)

 

ヨセフ

なんでザコシが好きかって言ったら、内輪みたいな関係性を飛び越えて破壊してくるから、おもしろいなっていうふうに感じる。

 

真嶋

ザコシ、何がおもしろいか全然わからなかったんですけど、これ聞いてわかりました。

 

みっさん・海聖

僕も。

 

真嶋

先輩に「これめっちゃおもろいやろ」って、動画見せられて、「えーっ」てなって、「お、お、おもろいっすね~」みたいな感じ。

 

希麗

結局それも含めて、人によっておもしろい基準って違うってことですよね。

 

ヨセフ

そうそう、けど笑えない基準ってやっぱりけっこうはっきりある気がする。人種差別とか、女性蔑視とか、あとは男性から女性の容姿イジりっていうのは、なんかちょっと、笑えないし、笑った自分に罪悪感覚える、みたいな……。

 

一同

あ~

ヨセフ

それを僕は受け入れるのにめっちゃ時間がかかって、頭でわかってるけど、笑ってしまう。反射的な反応と頭での理解が食い違っているから、それがたぶん罪悪感につながるし、笑えない基準でもある。だから自分の中で一番笑えなかったのは「金属バット」と「Aマッソ」。どっちも大好きなんやけど(笑)。金属バットは、特定の女優さんを貶めるみたいなネタをやってて。めちゃくちゃおもろいねんけどめっちゃ不謹慎で、今考えるとキツすぎるなって。Aマッソの場合は、大坂なおみさんの肌の色をネタにして「漂白したらえんちゃう」みたいなことを言ったこと

一同

あー……

 

ヨセフ

そういうネタがあって。Aマッソは好きやけど、あれはちょっとダメだと。僕の場合はそういう感じかな、笑えない基準。

「イジる」のはありなのか?

ミッさん

自分の場合は、笑える基準と笑えない基準ってけっこうはっきりしている感じがある。おもしろいと思う基準は2つあって、ひとつ目は「いかにわかりやすく、常識とは違う内容を笑いにできるのか」っていうところかな。ナイツさんとかは一番わかりやすい例ですね。ただ説明するだけなんだけど、ボケをひたすら入れるだけでおもしろくしているっていう。第7世代だとすゑひろがりズなんかもそうですね。2つ目は、ボケのバリエーションの多さがあるもの。NON STYLEなんかもわかりやすいですし、笑い飯や最近だと相席スタートなんかもそうですね。おもしろくないほうの基準は、自分を蔑んだりするやつです。

 

ヨセフ

自虐ってこと?

 

ミッさん

そうそう。あれが自分はあんまり好きではないです。トレンディエンジェルとか。

自分を敢えて下げて笑いを取るというのはあんまりおもしろいと感じませんし、人気としてもあまり出てないのかなって個人的には思います。

 

ヨセフ

けっこう今、お笑い好きの視点で話が進んでいるんですが、お笑いあんまり観ない側の、より客観的な意観とかってありますか。今の時代、これは気を付けないといけないんじゃないかとか。

 

希麗

なんか、最近地上波のお笑いを観なくなった立場として話したいんですけど、「誰か確実にこの話題で傷つくな」っていうのが目に見えてる状態でのお笑いとか、イジりっていうのは、もちろんおもしろい反面、ある程度気を付けてやったほうがいいんじゃないかなと思っています。それは、「炎上に対して気を付ける」って意味ではなくて、その先に傷つく人がいるよなってことを想像してほしくて。おもしろくかみ砕けるならいいけど、おもしろくならんのにそれを垂れ流すんやったらやめたほうがいいんじゃないかなって。でも、お笑いの要素として、欠点をイジるとか、そこから話を展開させるっていうひとつの方法があるじゃないですか。だから、全部を否定する必要はないと思うんですよね。けど、一方で、さっきも話に出ましたけど、人種とか容姿とか、その人のアイデンティティになったりするものの扱い方には注意したほうがいいし、そこをミスったら笑えへんなって思いますね。

ヨセフ

今回の座談会の企画って、希麗ちゃんが共有してくれたガンバレルーヤのよしこさんの記事がきっかけになって始まったやんか。自分は笑われて自信をつけた、「かわいい」より「おもしろい」のほうが嬉しいっていうよしこさんの意見に共感して、「誰も傷つけないお笑い」だけになっていくのは、やっぱりおかしいって話したのが始まりだった。僕はミッさん君と反対で、自虐とかもおもしろいって思っちゃうタイプ。多分この問題って、当事者性というか、「本人がどう思っているのか」にめちゃくちゃかかってると思う。例えば、ハーフとかをネタにする人。デニスの植野さんとか。僕は、そのシステム自体が気持ち悪いなって思うんですよね。日本人がいて、いわゆる日本人には見えない人がいて、「日本人」っていうスタンダードを置いて、そこから外れる人を日本人が集団で笑っていると考えると、それは気持ち悪い。ただ、外れる本人がそれを笑いに変換してるとか、そこに自分の立ち位置を見つけて、自分の特徴を自覚的に使ってるんならOKなのかなって。

【公式】デニス植野 ピンネタ『ピラミッド』/ヨシモト∞ホール公式チャンネル/YouTube

ミッさん

自分は、ネタのひとつとしてそういうのがあるのはいいけど、そればっかりされるのはちょっとなって思いますね。酷使しすぎる人たちもいたりするので……。

 

真嶋

私も、人種とか性別とかそういうのをイジるのは常識的に良くないっていうのはまず思っていて、テレビに出てる立場で、その点を踏まえてない芸人は大人としてどうなんだって思ってしまう。でも、ヨセフさんがさっき言ってたこともすごいわかって、本人がそこに立ち位置を見出してる場合もあるし、それで勇気をもらう同じ立場の人もいるから、そういうことをネタにすること自体がダメだとは私も思わない。でも、お笑いを観ない立場として、なんで自分がそういう「テレビ的なもの」を受け付けなくなったのかなって考えていたんですけど、とくにバラエティ番組とか観てると、「イジっていい人」っていう認識が出演者の間で共有されてて、前者に対して「こいつにはなんでも言っていい」っていう共通認識があるなかでのやりとりが、ゴールデンタイムに平然と流れてるのが気持ち悪いなって。前に海聖くんに教えてもらったんですけど、渡辺直美と女優がゲスト出演してる番組で、芸人が渡辺直美の腕とか胸を触る場面があったらしくて、それが許容されている空気だったらしいんです。でも、じゃあ隣にいた女優さんに同じことをできるのかなって、海聖くんが話してくれて。そういう「イジっていい人」「ダメな人」の線引きとかジャッジが共有されている空気があるのが今のテレビのバラエティだと思ってます。それで、みなさんも観たことあるかもしれないですけど、それを現実に持ち込んでくる人いるじゃないですか。

 

希麗

うわぁ、わかる……。

 

真嶋

バラエティノリみたいなのを教室でやってくる子が中学生のときとかにいたんですよね(笑)。

 

海聖

めっちゃ共感です、それ。

 

真嶋

それで、「うわキツ……」ってなって、自分はネットのほうに行ったなって思います。私YouTubeをよく観るんですけど、例えば複数人のYouTuberとかゲーム実況者とかの間でそういうことが起こってても、「この人たちの関係性やからな」っていうのでファンとして納得できるんです。基本的に、仲良くないと一緒に動画をやらないので。でもテレビのように、ひとつの番組に出ているだけの人間と人間がお互いにジャッジし合って、位置づけを決め合ってイジって笑っていることに気持ち悪くなって、素直に笑えなくなりました。

 

海聖

めっちゃわかります……。あと、それにプラスして思うのは、周りの空気感も大事だと思います。韓国に「知ってるお兄さん」っていう、俳優とかアイドルとかが出てるバラエティ番組があるんですけど、そこでよくイジられてるカン・ホドンさんっていうタレントがいるんです。僕はそれ見ても全然嫌な気持ちにならなくて、何でやろ? って考えると、周りの空気感とか相手へのリスベクトが見えるからやと思うんですよね。たしかにイジってるけど、貶めようとしてるんじゃなくて、かわいくてイジってる感じ? いじめに近いようなイジリとは違うものを感じますね。

【DATV】 知ってるお兄さん<SOL(BIGBANG)&ソン・ミノ(WINNER)出演回>/KNTV/YouTube

ミッさん

うーん、そうなんや……。僕自身は、みんなの話を聞いていて、すごくよく考えてるなって思いました。自分の場合は、純粋にネタがおもしろくなくなったなと思ってテレビを離れたので。コンプライアンス上の問題とかクレームとかでおもしろい番組がどんどんなくなって、ただご飯を食べるだけの番組とか旅番組とか、ネット上の動画を観て批評するとか、そういう番組ばっかりになったじゃないですか。そういうのが増えすぎてテレビ番組のおもしろさがなくなってしまったっていうのが大きいです。

 

ヨセフ

ひな壇芸人とか観るのは大好きなんですけど、僕が気をつけたいと思うのは、お笑いは縦社会であることです。もし本当にお笑いに対して改善を望むのなら、立場をフラットにしないとダメだと思っていて。例えばさっきハーフの例を出したけど、その人が自虐するときって、笑う人・笑われる人の関係性のなかでは、どうあがいてもその人は弱者なわけやん。その不平等な構造を温存したままで、「誰も傷つけないお笑い」っていうのは、僕はすごく偽善に感じる。純粋におもしろいって本人が思われているのか、あるいは本人をダシにして周りの空気感でイジってる側を「おもしろい」ってするのかで全然変わってくると感じていますね。

 

海聖

たしかに自虐ネタを誰かがするときであっても、イジる側だけの立場が高まる笑いじゃなくて、イジられた方の立場が高まってる笑いになったら、「イジリ」も本当に笑えるものになるのかもしれないですね。

 

ヨセフ

僕の理想は、誰かをめっちゃイジっている先輩芸人がいたとして、その人がイジったり、つっこんだりするときに、逆にイジられる側や後輩も、その先輩芸人の立場関係なく「自分もそうじゃないか」みたいな返しがワンセットになっていること。つまり、パワーバランスが均等なのがいいんじゃないかな。

 

早希

先輩、後輩という関係とは違うけど、「イジる」という点から考えると、私もアインシュタインのネタは一時期、全然笑えなかったんですよ。ネタを観だした頃はめっちゃおもろかったんですよ。だって実際おもろいから(笑)。

アインシュタイン【よしもと漫才劇場2周年SPネタ】/よしもと漫才劇場チャンネル/YouTube

みんな

わかる(笑)、ほんまにおもしろい。

 

早希

勝手に私が思ってるだけやけど、なんかもう稲ちゃんがかわいそうに思えてきて、多分本人は絶対にそんなこと思ってないし、コンプレックスを笑いにできるのがお笑いのすごさやのに。でも最近、私もYouTubeよく観るから感じることなんですけど、なんか同じ芸人さんでも、テレビに出てるときとYouTubeに出てるときは全然違って、YouTubeのほうがその人らしさが出ている感じ。で、アインシュタインの場合やと、稲ちゃんがよくイジられてるけど、YouTubeでは相方のゆずる君が最近よくイジられてるんですよ。これめっちゃおもろいと思って(笑)。

【罰ゲームは指ギロチン】宇多田ヒカル、レディ・ガガ、、、大物有名人の年齢HiGH&LOW!/アインシュタインのYouTubeシュタイン/YouTube

希麗

わかる(笑)。

 

早希

これが完全体なんやろなって思って、2人のことがめっちゃ好きになったんです。そんな感じで突破していけるんかなって、お笑いの暗い部分を。

 

ヨセフ

稲ちゃんとかは自分の芸のなかにアイデンティティを見出しているというか、自分を笑いにすることによって「自分らしさ」を強めていると感じる。それに対して、そういう人間のコンプレックスをイジるのはよくないという批判は、理解できるんやけど、僕は少しがっかりするというか、お笑いの一部分しか観てないなっていうふうに思う。

 

早希

私は、お笑いを「観させてもらっている」という感覚に近いです。プロの芸を「観させてもらっている」のに、「観ているだけ」の側がそんなに一方的に批判しちゃダメだって思います。



コンプレックスを武器にできる笑いの力

 

希麗

今の話でちょっと思ったんが、お笑いってけっこう、人に元気を与えたり、「頑張ろ」って思わせる力があるなって思ってて。例えばコロコロチキチキペッパーズのナダルさんにはいじめられてたという過去があったり、ほかの芸人さんにも容姿にコンプレックスがあったり、そういうバックグラウンドがある。芸人さんのお笑いはそこを乗り越えて完成した芸だから、その過程を踏まえずに批判しちゃうってのは、ちょっと違うんじゃないかって思います。

拝啓、ナダルをいじめていた人へ/コロコロチキチキペッパーズの『よろチキチャンネル』/YouTube

ミッさん

それを聞いてて、映画『グレイテスト・ショーマン』(2018)を思い出しましたね。ご存知ないかもしれないですが、「This is Me」とかの曲でも有名なミュージカル映画。サーカスが舞台で、特徴的な曲芸師たちが多く出てくるんですよ。そのなかでアイデンティティを自ら保つために、主人公である指揮官たちに反抗的な態度をとるシーンがあって、そのタイミングで「This is Me」が流れる。その場面を観ていると、芸人の方も特別な芸を持っている方も、アイデンティティを大事にされるんじゃないかと思いました。だから、そのアイデンティティの拠り所を逆になくされると、芸人の方も辛いんじゃないかって正直思うところはありますね。そうですね、僕自身もネタをやる人間だったので、自分の身に置き換えて考えると、いじめられてたりとか、社会的な身分としては下のほうから頑張ろうとしている人たちがいることを考えると、その人たちが輝ける舞台として、「芸人」という職業や「ひな壇」は必要性があるんじゃないかと感じますね。

The Greatest Showman Cast - This Is Me /Official Lyric Video/YouTube

ヨセフ

「笑い」って、自分のアイデンティティを確立させて、弱い立場の人間が勝者になることができる機会というか、社会的に弱い人でも芸を身につけて披露することによって上に立てる武器だと思う。だけど、やっぱりそれを主張できるのは、その人だからであってで、そのプロフェッショナリズムを観客が理解して、自分は同じ行為をしないように考える必要があると思う。僕の主張は一貫してお笑い芸人をプロとして、自分たちとは違うと考えて、その芸を内輪ノリに適用しないことが必要ってことです。

 

海聖

僕もそれに賛成します。プロと内輪ノリを分けるのは必要だと思う。

 

ヨセフ

イジられたいし、「かわいい」より「おもしろい」と言われるほうが嬉しいというよしこさんの記事自体については、みんなどういうふうに思いましたか? 「女芸人」という言葉もあるし。「イジりにくい」とかを男が言うのもどうなんだと思うところもあるんですけど。

彼氏いない歴26年…初デートは遺品整理 よしログ/【公式】よしもと芸人出演トーク番組「よしログ」/YouTube

希麗

私的には、よしこさんのような主張がすべてだと思うのはリスキーかなと思っていて。例えば、「ブスやから、デブやから、おもろくないとダメ」みたいな風潮にもなりかねないというか。それは芸人さんのせいとかじゃなくて、一視聴者である私たちが日常のなかでもお笑いという要素を共有しているからこそ、ある程度意識して、芸人さんはお仕事としてやっているっていうことを理解しないといけないと思います。その風潮を許容するのはよくないなって。

 

ミッさん

自分も視聴者が問題なんじゃないかと思ったりしますね。例えばなんですが、漫才もそうなんですけど、おもしろければ男女関係なく「勝ち」ですし、おもしろくなかったら「負け」という世界だと思うんです。視聴者がジェンダー差別をしているからこそそういう構図を見出しているだけで、戦っている芸人さんたち本人はそこまで考えていないのではと思ったりするんですね。

 

ヨセフ

僕はけっこう否定的かも、その意見には。

 

希麗

私はミッさんさんとは逆の考えで、視聴者の価値観が変わってきているからこそ、お笑いが変わっていくことを求められているんじゃないかと思います。やっぱり社会が多様化するなかで、お笑いだけがずっと「昔のおもしろさ」を引きずっているのは違うなと思うし、進化が足りないんじゃないかと思う。おもしろいものってつねに変化しているし、一回ウケたネタが永遠におもしろいわけじゃない。視聴者とお笑いを提供する側のどっちが変わるべき、とかじゃなくて、そもそも社会に合わせてどんどん変化していくものなんじゃないかなって思ってます。

 

ミッさん

キングコングの梶原さんのYouTube番組「カジサックチャンネル」で、今のテレビでの芸人の芸は、もはや古典芸能に映っているんじゃないかと言ってた。そしてやっているほうも、古いものは古いものでいいやっていうスタンスを強く持ってるから、テレビは今後も古典芸能のような路線で進んでいくんじゃないかって。

【登録者90万人記念】キングコング西野さんが部屋に来てくれました/カジサック KAJISAC/YouTube

ゆりやんは何を超えたのか?──お笑いとジェンダー

 

早希

私めっちゃ引っかかるんですけど、「THE W」ってあるじゃないですか。それっていいん? って思います。

 

ヨセフ

あからさま感は感じる。

 

早希

男女の二項対立構造がはっきりしますよね。女芸人って、「女」ついてるやんって思っちゃった(笑)。「女芸人」って書かれているの見ると、そこ出さなあかんのか、って思ったし、芸人が本当に実力社会でフラットなんやったら、そこ出したらあかんやろって。もう男女の単純な対立構造がっつり出てるやんって。女芸人の中でもカテゴリーがいろいろあるはずやのに、いつまでテレビこの二項対立でいくん? って。

 

ミッさん

前時代的なところは否めないよね。

 

真嶋

「芸人は、笑いっていうひとつの価値観の世界で生きてるから、フラットで実力主義なんじゃないか」っていう話がさっき出たけど、そこは私も早希ちゃんと同じ意見で、じゃあ「女芸人」っていう呼び名は必要ないんじゃないかって思う。女芸人の「女」がただ性別を指し示すだけの記号として使われてるんだとしたら、じゃあ男性の芸人は「男芸人」って呼ばれなきゃおかしくないかなって。でも、現実はそうじゃないから、やっぱりそこに「女」っていう事実だけじゃなくて、それを理由に求められてるものがあって、それで制限をされるものもあるっていう現実は受け止めるべきなんじゃないかと思ってますね。

 

ミッさん

吉本興業をはじめとした芸能事務所が「女芸人」っていうレッテルを貼って売ってるっていう現状なんじゃないかな。僕はやっぱり漫才そのもののなかにジェンダーによる格差は無いと思っているんです。実力主義みたいなところはあるんじゃないかと思うんですね。評価する審査員の側にバイアスがかかってることはあるんでしょうけど、女性の方々が「実力があるから」というところで評価されるのは最近よく見かけますし。その状況がありながら、テレビで発信するときはあくまでも差別的な枠組みで「女性芸人」扱い、というのが個人的に問題だなと思いますね。

 

早希

おもしろい人はきっとどんなかたちであっても残りますしね。システムが変わっても。

 

ミッさん

ゆりやんレトリィバァさんとかも残る人なんじゃないですかね。渡辺直美さんのように、お笑いの範囲を超えて活躍なさってるというのもありますし。そんな意味では、ほかの領域よりは比較的フラットなんじゃないかなって思います。

 

早希

でも私あれダメでした、ゆりやんがアメリカの国旗の水着着てるやつ。

Is This The STRANGEST Dance Audition EverOn America's Got Talent 2019? / Got Talent Global/YouTube


一同

あー(笑)!

 

早希

あれはもう……同じ女子として(私のなかの古風な自分が反射的に)アカンって思っちゃった……。

 

海聖

僕は笑っちゃったあれ。

 

ヨセフ

僕も笑っちゃった。でも一個一個、そう受け止めた感覚の理由、確かめる作業が要る気がするなあ……ちなみに何があかんかった?

 

早希

本人が良いと思ってても、性別的には女じゃないですか。芸人がフラットな実力主義の世界なら、それを武器にしたらあかんなと思う。

 

ヨセフ

最低限のラインを超えちゃったなって感じ?

 

早希

本人がいいならいいけど……。それで笑いを取るのは、下ネタと大して変わらんと思って、笑えなかったですね。

 

ミッさん

たしかにそれは言えてるかも。出川哲郎やダチョウ倶楽部のような感じってことですね。

 

ヨセフ

難しいな……僕はあそこで「性別を超えた存在」としてゆりやんが在るのはちょっとおもしろかったかも。ただそれを「させられた」って前提があるとしたら、いただけないかも。

 

希麗

ゆりやんのネタに対して、「女性やからそんな格好したらあかんって!」っていうのは、ちょっとジェンダーバイアスかかってるかなって思うかなぁ。

 

ミッさん

それはちょっと思った。

 

希麗

一方で、同じ女性としてゆりやんのネタを観たときに、「うわぁおもろいなー!」って思うのは、ゆりやんがしてるネタやからであって。あれを女性として消費されるとおもしろくないなっていう。

 

ヨセフ

そのためには、乗り越えないとダメなんよな。ジェンダーを。

 

希麗

私も最初に観た時に「際どっ!あかんて!」とは思いましたよ。でも、でもやっぱりすごいなっておもったのは、そこにおもしろさがあって、お笑いとして成立してるってことかな。

 

ヨセフ

多分、何かを乗り越えないとダメなんやろな、お笑いって。

 

海聖

いま話を聞いてて、さっき「THE W」の話が出て、女芸人/男芸人の話があったじゃないですか。一方で、「そこは一線超えたらあかん」みたいな話もあった。早希ちゃんが言うように、そこまでしないといけない理由があったのかなっていう意見もあると思うんですけど。女性やから無理してあそこまでやったっていうことではないんじゃないかって思ってて。「一線超えたらあかんやろ」のラインってどこなんやろうって。全部許されるとかはおかしいって思うけど、多様性の実現という視点から考えると、どこで線引きをするのがいいのかなって、今聞いてて思いました。

多様化する「おもしろい」は共有できなくても「絶対ダメ」は共有できるはず

 

希麗

ほんまは「女性やから」とか「男性やから」っていうのを考えへんのが一番いい。そういうことを考えんくてもフラットに楽しめることが一番理想やと思います。今回話していたような悩みって過渡期やからこそ出るんかなって思う。今が価値観が変わってる途中やから、かえって意識させられてしまう。同時に、私は「差別に敏感になりすぎてる」っていう意見にも賛成で、誰も何が正解で、何が正解じゃないか分からへんからこそ、みんなが探り探りで敏感になっちゃってる現状はあるんじゃないかなって思います。

 

真嶋

過渡期やから、っていう言葉はすごく納得できて、今までは、「お笑いだから」っていう理由で「良い/悪い」っていう倫理や常識のジャッジから逃れられてきてたけど、今「それってお笑いやからってやっていいん?」って観ている人からジャッジされて、揺らいでる途中なんやと思う。でも、それが後々になって、「これが良いです」「これは悪いです」って明確化されることが果たしていいのかっていうと、それも違って、価値観の違う人たちが一緒に生きてる社会のなかで共有される「お笑い」やから、良いものも悪いものも絶対あって、極端に悪い物は排除されるべきやけど、「良いのか悪いのか」っていう迷いはいっそ残っていって、そこでみんなが考え続けるのが良いのかなって思います。「考えることをやめない」ことが一番大事なんじゃないかな。

 

海聖

あ~、めっちゃ腑に落ちました。

 

ミッさん

いわゆる第7世代なんかは、その最たる例なんじゃないかと思いますね。それぞれがけっこうばらばらで、笑わせるところも全然違いますし、笑う層も全然違うはずなんですね。ある人にとってはこのネタはタブーだったり、ほかの人たちが叩いてるものでも自分はいいと思う、というかたちでどんどん細分化されるんじゃないかなと。それをいろんな人たちが見て、良い/悪いの判断をしていくっていうのが今後の話になっていくのかな。それがお笑いの未来に繋がっていくのかなと思いますね。

 

真嶋

うんうん。

 

ヨセフ

「良い/悪い」ももちろんやけど、「排除しない」がやっぱり一番大事かな。誰かを傷つけないとか、そういうのも重要になってくると思う。

 

真嶋

感覚が多様化していって、みんなにとっての「おもしろい」は昔みたいに共有できないけど、みんなから観て「絶対ダメ」みたいなものはちゃんと共有されて、そのうえでいろんな「おもしろい」が享受されていくのがいいですね。

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2021/08/06
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ヨセフ|22歳。K-dotを敬愛する優しきHIP-HOPオタク。映画もアートも読書も好き。自称優柔不断。

早希|20歳。自由を愛する、生粋の大阪人。甘いものが嫌いで、辛いものが好き。自他ともに認めるAB型。

希麗|20歳。滋賀県産。アジアを愛し、ハートとエネルギーに満ちたフェミニスト。

みっさん|21歳。経済学部出身。行動経済学を学んでいる、めっちゃ明るいサブカル好き。

真嶋|21歳。スパイスカレーとパンを愛するつぶあん派の就活生。マイブームはウマ娘プリティーダービー。

海聖|いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

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