DJ、シンガーソングライター、音楽プロデューサー、ラジオパーソナリティ。KIRINJI、黒田卓也、Yaeji、Joe Hertzなど、様々なシーンのアーティストへの客演参加を積み重ね、2021年3月24日に自身初となる1st EP『The Light, The Water』をリリース。
写真提供 | YonYon
眞鍋ヨセフ
今日はよろしくお願いします。YonYonさんの過去のインタビュー★1を読んでとても印象に残っているのが、オーバーグラウンドとアンダーグラウンド、韓国と日本、というように何かと何かのBridge、架け橋となることを意識しているとおっしゃっていたことです。これはYonYonさんのなかで大事にされている根本的な姿勢なのかなと感じました。架け橋となるアーティストとして生きるために、日本を選んだ特別な理由はありますでしょうか?
YonYon - DJ @ 森、道、市場 2018/DAX -Space Shower Digital Archives X-
YonYon
ありがとうございます。特別な理由はじつはそんなになくて、生まれと育ちが日本と韓国だったからっていうことなんです。私は韓国で生まれましたが、物心がついてからは育ちがほぼ日本というバックグラウンドを持っています。両親の仕事の都合で、幼いころから日本と韓国を行き来していました。
大学生の頃に東京で始めたDJ活動が少しずつ実を結んで、大きい規模のイベントに出演できるようになったり、応援してくれる仲間も増えてきてたので、アーティスト活動を日本で頑張りたいという気持ちが強くありました。学部4年のときに交換留学で韓国の大学に通っていたのですが、そこで出会った友人たちのおかげで、卒業してからも頻繁に韓国に行ってDJをしたり、逆に日本へアーティストを呼んだりして交流を深めていきました。残念ながら新型コロナが流行り出してから、2020年の2月以降は一度も韓国へ行けてないんですけれど。
眞鍋
韓国ではなく、日本で、というところにYonYonさんにとって、どういう意味があったりするのですか?
YonYon
そうですね。どちらかというと日本で過ごした期間が長いというのもあって、生活環境は日本のほうが整っているんですね。それと、音楽活動を始めて間もないときに出会った人たちは今もずっとお付き合いがあって、一緒にシーンを作り上げてきたという共通意識があります。音楽活動をするにあたって横の繋がりはとても大事なので、そういった意味では日本をベースに、必要なときに韓国をはじめアジア諸国に行くというのが活動しやすいのかなと思っています。
眞鍋
僕はクラブシーンやDJシーンに明るくないので、お尋ねしたい部分でもあるのですが、9月10日にアルバムが発売されるPark Hye Jin★2さんや、YonYonさんとかねてから親交のあるYaeji★3さん、Peggy Gou★4さんのように、今国際的に活躍するアーティストには韓国にルーツを持つ方が多いように感じます。BTSやBLACKPINKといったグローバルな方面に進出するK-POPが台頭してきたこともあり、オーバーグラウンドのシーンは注目されていますよね。YonYonさんにお聞きしたいのは、韓国においてはアンダーグラウンドのシーンでも海外を視野に入れた活動をしている人は多いのでしょうか? そして、YonYonさんがメインに活動されている日本のシーンでも、じつは海外志向のアーティストはいるけれど、なかなか機会だったり、マネジメントの関係で出られないという方がいたりするのでしょうか?
YonYon
そうですね、今名前を挙げられたような人たちは、世界的に注目されていて韓国の音楽シーンがアツいという感じになっていますが、Peggy GouやYaejiに関しては、ルーツ自体は韓国にあるんですけど、学生時代を海外で過ごした経験がかなり大きいと思います。海外でキャリアをスタートさせ、積み上げてきた環境があるからこそ、インターナショナルにいち早く羽ばたけたのかもしれませんし、そのきっかけはアーティストそれぞれなので、それが100%そうだとは言い切れないんですけど、少なくともそうした環境はすごく彼女たちにとって大事だったと思います。同時にBTSやBLACKPINKなどによってK-POPが世界的に流行ったことで、韓国語で歌うこと自体がクールという流れができたのも関係あると思っています。ただ、Park Hye Jinが2018年にデビューEPを出した後、自ら活動拠点をヨーロッパだったり、アメリカに移したように、韓国国内に留まっているだけですと、なかなか海外のシーンで勝負するのに限界があるようです。海外を視野に活動している韓国のアーティストは、最終的に海外に拠点を置くことを目標に、あらかじめ英語の勉強をしっかり準備されている方が多いですね。アーティスト活動をしながら空き時間に英会話に通っているという話をよく聞きます。
じつは日本でも、既に海外の音楽シーンで活躍しているアーティストはたくさんいらっしゃいます。ただ、日本国内で認知されてないっていうのはあると思うんですよね。海外の音楽シーンと日本の音楽シーンとでは、まったく市場が異なるのでリスナー層が一致しないという問題はあると思います。あとは音楽ジャンルによっても、状況が変わってくるので一概には言えないです。もうひとつ問題があるとすれば、日本と海外をつなぐエージェントが少ないという点です。海外に進出したくても、相手の国と何かしらの繋がりがないと、音源が売れたとしてもなかなか国外でライブする機会を得るのは難しいです。今はSNSやサブスクリプションサービスが発達して自然発生的なバズが起きたり、海外のアーティストともSNSベースで繋がる機会も増えましたが、そこから次のステージへと繋いでいくひと押しが、もう少しあったらいいなと思います。楽曲の権利関係の処理だったり、ツアーの契約書等を専門的にみてくれる人が本当に少ないので困っています。
眞鍋
近年SNSを中心に、アーティストの政治的発言に関して、多くの議論がなされています。日本だとアーティストや芸能人が政治に関して発言することを忌避する傾向があるように見えます。コロナ禍の2020年以降、差別問題なども一層露わになってBlack Lives Matterも盛り上がり、海外のアーティストによる意見表明も目立つようになりました。それと比較すると、日本のアーティストも意見を表明する機会が増えてはきたものの、まだまだ少ないように思えます。これはアーティスト個人の問題というより、そういう環境を作り出している日本の社会全体の問題だと考えているのですが、YonYonさんは、政治的発言を忌避する日本特有の空気感のなかでも、受け入れられやすいような発信方法を模索しつつ、ピースフルなメッセージを投げかけていらっしゃるように思えます。政治的発言に関する意見と合わせて、ご自身のアーティストとしての姿勢、発信についてどのようにお考えですか?
YonYon
アーティストや著名人が政治的発言をするか否かについてですが、ちょっと前から「アーティストであれば社会的な発言をするべきだ」みたいな、逆の同調圧力が生まれていると感じていて、私はそれは決して良い流れではないと思っています。もちろん個人のスタンスを表明することってとても大事ですし、今世の中で起きている問題を放置するべきではないと思っています。ただ、その発言する場所が匿名性の高いSNS上であること、いつどこで誰が受け取るかがわからないという点を意識するべきだと思うんです。なかには「ほかのアーティストが発言しているから、私も何か言わなきゃ」と焦りを覚えた人たちが少なからずいると思います。そういった人たちが無理に発言して、結果的にそれが誤った情報や思想を発信してしまうという問題もあると、個人的には思っています。
著名人やアーティストって、ある程度の数のフォロワーを持っているので、自分たちが発言することでどれくらい多くの人が影響を受けて、心を動かされるのかを認識しないといけないですよね。そういう意味で、政治的発言や、社会的な発言をするときは、とくに気をつけないといけない。その思想とか考えというのは、本当に人それぞれで十人十色だと思うので、無意識に「自分はこうだから私のファンのみんなもこう思うべき」と押し付けるのは良くないなと思っています。最近多くのツイートが攻撃的でTwitterを開くのが嫌になるほど、気分が落ち込むことがあります。私も少し前までは「これを言わなきゃ」とか、「この情報を伝えなきゃ」って必死になってツイートしていた時期もありましたが、世の中を少しでも良くする為にと思って発言したことが、場合によっては誰かを傷つけてしまうかもしれない可能性があると考えるようになってから、言い方とタイミングをめちゃくちゃ考えるようになりました。なので、SNS上で何かを問いかけたいときは、ツイートを見た人にそれぞれ自分の考えを導いてもらえればいいなと思っているので、あえて答えを断言するようなことはしないようにしています。でも、自分の考えを伝えることも大事なので難しいですね。
眞鍋
ありがとうございます。本当に自覚的で素晴らしいなと思ったんですけど、SNSの使い方に関して、YonYonさんのように「影響力のある人としての発言」という点を理解している人が日本では少ないと感じます。音楽に限らず、どの分野においても発言が影響力をもつことへの意識が希薄な人が多いことに疑問を感じていました。YonYonさんのSNSに関するリテラシーやマインドは、経験から生まれたものなのですか?
YonYon
そうですね、実際に投稿して跳ね返ってくるリアクションなどでいろいろ考えさせられますが、大学の教養でメディアリテラシーを学んでいたことはある意味強みかもしれないです。言葉の持つ力だったり、映像や画像を見せるタイミングによって、まったく心理状況が変わってしまうということを学びました。SNSで投稿するにあたってそこまで深く意識することってほぼほぼないと思うんです。なぜなら匿名性が非常に高く、誰でも簡単に使えるプラットフォームなだけに、ワンクリックで全世界に向けて発信できてしまう。とても便利だけど、思いやりを持って使うべきだと思います。最後には人の心にダイレクトに届きますから。そろそろ義務教育のうちに、SNSやメディアに関するリテラシーを学べる講義を取り入れるべきだと思います。この問題について誰かと一緒に考えるきっかけが少ないというのが問題であると考えます。
眞鍋
YonYonさんは過去のインタビューで、ご自身がクリスチャンであることを公言されていましたが、どういった影響をキリスト教は与えているのでしょうか?
YonYon
アーティストとしてのスタンスもそうですが、生きるうえでの知恵や、生き方そのものに影響を受けました。ただ、自分がクリスチャンだからといって、自分のファンにそれを強要するということはしないですし、聖書に書かれている話や説教で学んだことをそのまま鵜呑みにせず、自分の中で一回消化してからアウトプットすることを意識しています。両親がキリスト教信者だったので、生まれたときから自然と毎週教会に通ってましたが、自分の人生と宗教は別物として分離させていたんです。けれども、それをうまく一緒に考えるようになったのは割と最近の話なんですね。アーティストとして、ある程度影響力を持つようになってから、自分の生き方についても改めて考えるようになって、キリスト教が教える愛と平和について、私も自分なりに伝えていきたいと思うようになりました。
眞鍋
最初にYonYonさんのDJプレイを拝見したのが、2018年の「森・道・市場」の動画でした。そこから、ボーカルを聞いたのはKIRINJIさんとの「Killer tune kills me」で、単純にラップがかっこよかったというのもあるんですけど、とくにラップの「ずっと隠し続けていた傷跡は絆創膏を貼って、見えてなかっただけで、残ってしまっている」というリリックが強く印象に残っていました。YonYonさんがリリックを書くときに意識しているメッセージや意図はありますか?
KIRINJI-killer tune kills me feat.YonYon/KIRINJIVEVO
YonYon
少なくとも普段から自分が考えていることだったり、抱いている疑問を歌詞を通じて伝えようと思っています。曲によってはフィクションの歌詞もありますけど、フィーチャリングである程度指定されているものじゃない限り、自分名義の音楽では実体験に基づいた話が多いです。あと詩的な表現だったり文学的な表現をするのが苦手なので、シンプルな単語を選んで書くことで、自然と想像しやすい歌詞になっているのかもしれません。
眞鍋
一リスナーとしての僕自身の印象では、「本当の自分を見出す」「自分の大切にするものを見つけよう」など、自分を大事にすることを促すような歌詞が多いなと感じていました。自分自身をまずは知って、他人へと繋がることができるというメッセージを勝手に感じ取っています。YonYonさんがテーマにされている、“Bridge”に立ち返っても、もちろん人と人を人や場所と場所を繋ぐということも一方であると思いますが、他方で人と繋がるためにまず自分に立ち返るという内省的な部分がYonYonさんが醸し出す雰囲気の魅力だなって思っています。
YonYon, SIRUP - Mirror (選択) MV/Stone Music Entertainment
YonYon - Capsule feat. DaigoSakuragi (D.A.N.) Official Video/YonYon
YonYon
それは多分、100%自分のことを好きになれていないからこそ、自分に言い聞かせている部分があると思うんですよ。歌詞にすることで、自分もその周りも救われたらいいなと思っているんです。自分を愛せたときに初めて相手を心から愛すことができるからです。
人間は一人ひとりが育った環境も違うし、まったく異なる存在なので、100%自分に満足するのって難しいと思うんです。他人同士で比べ合ったり、誰かが自分に持っていないものをひとつでも持っていたら羨ましく思ってしまうのが人間だと思うんです。「違いがあることが大事」ということもわかっているけど、ふとしたことで落ち込んだりするし、生きている中でそういう気持ちに苛まれることがあると思うので、そのたびに自分に投げかける言葉をアウトプットしているんじゃないかと思います。
眞鍋
難しいフレーズとかはないのに、本当に刺さるというか、頷けるようなリリックが多いと感じています。
YonYon
まだまだ勉強中です。自分についても(笑)。
眞鍋
今回、インタビューをさせていただいた趣旨のひとつとして、「アジアのなかでの連帯」について考えるべく、国を跨いで活動しているYonYonさんにお話を伺いたいということがありました。コロナ感染症という人類共通の災禍、また日本がかつてのようにアジア圏で突出した経済大国である時代が終わったからこそ、日本人も「アジア人」としてのアイデンティティを持ち、アジアのなかで連帯をしていけたらどんなにいいだろうと私たちelaboは考えています。若い世代ではK-POPなどを通じて、偏見なしに互いの文化を受容し合っている現象や交流も見られます。YonYonさんはミュージシャンとして業界にいらっしゃる立場から、アジアの連帯の可能性をどのように見ていらっしゃいますか?
YonYon
現在、デジタルネイティブの時代において、音楽やアートというのは当たり前のように国を超えています。そのような環境は、若ければ若いほど当たり前のものとして、すぐそばにあるものだと思っています。例えば、K-POPをきっかけに韓国に対する偏見がなくなったとか、逆に日本のシティポップや歌謡曲ブームが世界的に起こるといった現象がありますよね。コンテンツを通じてその国の文化を好きになったというのは、わりと普通にあることなので、音楽やアートは国を超えることに十分に機能していると思っているんです。ただ、アジアの連帯ということを考えるならば、そもそも社会全体がお互いに平和に歩み寄らない限り、いくら音楽とかアートで繋がったとしても国の問題は越えられないのではないかと思っています。
例えば、アジアンヘイトクライムだったり、反日や嫌韓といった内容のニュースが流れているときって、日本と海外のメディアをそれぞれチェックするとお互い報道で歪み合うように仕向けられているような印象を受けます。さまざまなメディアがさまざまな立場で発信している。私たちは日々、それを受けとっているわけなんですけど、「嫌な感情」だけにとらわれないためには、一人ひとりが平和を願って、自分のなかでブレない信念を育てていかない限り、連帯っていうのはそもそも無理なんじゃないかと思います。なぜ相手は攻撃的なのかを相手国の歴史的背景に関心を持って歩み寄ることも大事ですが、それには無関心な人がほとんどなのが現状です。
眞鍋
本当に考えさせられるご意見です。同世代がK-POPに憧れるのを見て、時代が変わっているのを感じていたんですけど、同時にそういう人たちは、結局は現実の国家同士の関係とはまったく無関係に「消費活動」をしているに過ぎないことも多いのかもしれません。互いの文化を消費し合うだけでは、YonYonさんがおっしゃるように、連帯というふうにはまったく足りないのかもしれない。音楽が国境を超えることに希望はありますが、消費で終わってしまわないためには、歴史や社会問題なども含めた学びが必要なのですね。
YonYon
ただ、同時に、あんまり難しいことを考えすぎなくてもいいんじゃないかな、という思いもあります。実際に日本には、外国人労働者やその家族が多く移住してきている。たとえば自分が小学生の頃は、同級生で外国籍の人は自分ひとりだけだったんですけど、今はもっと増えていると思うんですよ。そういうことが当たり前の時代になってきているので、自分のすぐ近くにいる人たちと交流したり、対話することから始めるのも良いと思っています。
眞鍋
YonYonさんのこれまでの発言も踏まえつつなんですけど、一貫して、考えてもらうきっかけを作るということを大事にされていると感じました。知らず知らずのうちに、カルチャーを受動的に消費してしまっている自分たちにも刺さる指摘をいただいたと思います。
YonYon
ありがとうございます。国や宗教とかってさまざまな歴史的経緯があって、隔たれていますが、元はといえば人間は地球人というひとつの大きな生命体であったはずなんですよ。元々人間はひとつの言語を話していたという「バベルの塔」のエピソードが聖書にもありますが、それが人の手によって分断されてしまったというのは現在の状況にも通じる話です。人間の中にある欲望が権力を生み出し、お金というシステムによって階級が分かれ、世界は分断してしまっています。日々世界のどこかで起きている戦争や紛争も他人事ではありません。世界中がコロナや経済破綻でパニックになっている今、私たちは団結するべきだと思っています。SNSや流れてくるニュースに捉われず、今自分のやるべきことは何かを考え、家族や仲間を大切にすること。そして周りの人とリアルな場所で議論をすること。それを、一人ひとりが実践し、隣の人とどんどん繋がっていって、いつかは世界がひとつになることを願っています。
DJ、シンガーソングライター、音楽プロデューサー、ラジオパーソナリティ。KIRINJI、黒田卓也、Yaeji、Joe Hertzなど、様々なシーンのアーティストへの客演参加を積み重ね、2021年3月24日に自身初となる1st EP『The Light, The Water』をリリース。
写真提供 | YonYon
elabo youth編集長。映画、アート鑑賞、読書が趣味。