#youth|波物語の件からJ-HIP HOPを考える──ヘッズの視点から
波物語は、HIP HOPフェスと銘打って愛知県常滑市で開催されたものだ。しかし、コロナ禍とは思えないほど杜撰な運営、密集した客を煽る出演者の振る舞いが批判を浴びた。
#HIP HOPフェス #コロナウイルス #コンプライアンス
culture
2021/09/06
執筆者 |
io
(いお)

大学2年生。趣味はスポーツ観戦とHIP HOPを聴くこと。最近は大谷翔平と佐藤輝明に興奮している。

先月の29日に開催された波物語。この波物語は、HIP HOPフェスと銘打って愛知県常滑市で開催されたものだ。しかし、コロナ禍とは思えないほど杜撰な運営★1、密集した客を煽る出演者の振る舞い★2が批判を浴びた。先日開催されたフジロック★3についても運営側の説明責任が問われたが、波物語は酒類を提供していることから、それ以上に非難されるべき運営体制であったといえるだろう。

 

フェス終了後、ANARCHY★4はInstagramのストーリーで、出演者であるLeon Fanourakis★5、Jin dogg★6などと、夜の街を歩きながら、大声を発していたことが非難された。一方で、Zeebra★7、AK-69★8などのラッパーは謝罪文を掲載するなど、対応が二分化した。また、AKLO★9、Awich★10はステージ上から、客をたしなめる場面もあったようだ。コロナウイルスに対する意識の持ち方が個々人によって大きく異なり、一部アーティストの意識の低さが観客に伝播してしまったことも、今回の失敗要因のひとつとして挙げられるであろう。

 

運営の杜撰さ

 

だが、一番非難されるべきなのは、出演者でも観客でもなく、やはり運営側だと筆者は考えている。その理由は明らかで、十分なコロナ感染対策を行うことができていないからだ。酒類提供、密状態の形成、これらはクラスター発生の要因になりうる。出演者を見ると、J-HIP HOPを代表するメンバーが集結している。現在のトレンドであるトラップ・ミュージックは乗りやすい楽曲が多く、観客の声出しや密集に注意する必要があった。にもかかわらず、密の状態をつくり、結果として放置してしまったことは、運営の怠慢であり、非難されるべきだと感じた。

 

顕在化したHIP HOP業界の闇

 

今回の波物語で、HIP HOP業界のコロナウイルスに対する意識が世間に露呈したかたちとなってしまった。ラッパーは普段、クラブでライヴを行っている。その様子はインスタグラムのストーリーなどでも見ることができるが、最近の動画でも、マスクを着用していない客もちらほら見受けられる。

 

波物語は、「クラブのノリ」を大舞台で行った結果、炎上したフェスだと感じた。今まで日本ではHIP HOPに対する注目度は低かったため、アンダーグラウンドのノリでなんとかなっていたかもしれない。だが、TikTokなどの影響で、バズを起こすラッパーが増え、必然的に注目度は上昇することになった。波物語も、HIP HOPの人気上昇を象徴するフェスであったことに違いない。だからこそ、健全な運営と振る舞いを心掛ける必要があった。これでは、一昔前に逆戻りし、また注目度が低くなってしまうように思う。

 

この先求められるもの

Photo by Σ64 (CC BY 3.0)

 

すでに、ラッパーにもコンプライアンスが求められる時代が到来している。アメリカではHIV患者、同性愛者に対して差別発言★11をしたDABABY★12がフェスへの参加辞退に追い込まれている。過去のLGBT差別を謝罪する★13ラッパーも現れるなど、シーンの価値観も時代とともに変化している。僕は日本でもHIP HOPが流行ってほしいと考えているが、杜撰な運営と振る舞いが続くようならば、それも無理な話となってくる。

 

一HIP HOPファンとして、今回の件を許すことはできない。Creepy Nuts★14やZORN★15など、地上波のパラリンピックの宣伝で活躍し、HIP HOPのシーン向上のため尽力しているラッパーの努力を踏みにじる行為であったように思う。ラッパーには、過去にやんちゃをしていた人が他ジャンルのアーティストに比べ多く、そうしたこともHIP HOPの魅力になっていると思う。だからこそ、個々の状況で何が許され、許されないのかを判断できるラッパーが増え、シーンと社会に対し、健全に貢献できるようになってほしいと感じた今回の一件であった。

culture
2021/09/06
執筆者 |
io
(いお)

大学2年生。趣味はスポーツ観戦とHIP HOPを聴くこと。最近は大谷翔平と佐藤輝明に興奮している。

写真 | Evgeny Karchevsky (Unsplash)
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