頷いて、でも目は閉じないで──Apathy×elaboに寄せて
クラウドファンディングの新たなリターンとして、ランジェリーブランドApathyさんとのコラボアイテムが完成した。‍今回作成していただいたのはユニセックス・パンツだ。ジェンダー・フルイディティを意識し、どなたでも着用できるアイテムをデザインしていただいた。
#ジェンダー・フルイディティ #フランク・オーシャン #クラウドファンディング
identity
2021/10/16
執筆者 |
眞鍋ヨセフ
(まなべ・よせふ)

elabo youth編集長。映画、アート鑑賞、読書が趣味。

Every time we’ve no control
僕たちにはコントロールできやしないんだ

If the sky is pink and white
もし空がピンクとホワイトだとしても

If the ground is black and yellow
もし地面がブラックとイエローだとしても

It’s the same way you showed me
君が僕に教えてくれたのと同じ

Nod my head, don’t close my eyes
頷いて、目は閉じてはいけない

──フランク・オーシャン「Pink + White」(2016)



クラウドファンディングの新たなリターンとして、ランジェリーブランドApathyさんとのコラボアイテムが完成した。

今回、Apathyに作成していただいたのはユニセックス・パンツだ。ジェンダー・フルイディティを意識し、どなたでも着用できるアイテムをデザインしていただいた。



過去に記事「下着とアイデンティティ──ランジェリーブランドApathyへのインタビューを通して考える「美」」(2021年8月21日配信)で取材をさせていただいたApathyは、ハンドメイドのランジェリーやライフスタイルのかたちを提供することで、ありのままの自分を愛するというメッセージを発信しているブランドだ。

ブランド名である「Apathy」を辞書で引くと、「無関心」や「無感動」といった意味が出てくる。一見するとネガティブな意味合いに見えるこの言葉をなぜ、ブランド名に使ったのかをApathyのナズさんとリカさんに伺った。

リカさん(左)、ナズさん(右)

「Apathyのコンセプトである“美しさ”とは今まで経験した事やカルチャーをどれだけ素直にアウトプット出来ているかだと思っています。

特に豊かな表情の引き出しを持っている人。その表情分の出来事を沢山体験しているという事。自分の歴史を素直にアウトプットすると言うことはそういう事です。どんな見た目でも自分と向き合い、自分なりに自信を持って一生懸命生きているはず。そんな人がApathyは美しいなと思っています。


私たち2人がランジェリーを好きになるキッカケになったニュージーランドのLonelyというランジェリーブランドが、コンセプトの逆の意味をブランド名にしており、敬意と憧れを込めてApathyも「表情豊か」な人が1番美しいというコンセプトとは、真逆の意味を付けました。

 

ニュージーランドのランジェリーブランド「Lonely」もまた、さまざまな体型、さまざまな年代、さまざまな肌の色のモデルを起用し、ありのままの自分への愛を感じさせる素敵な世界観を表現している。

このように、あえて真逆の、ある意味ではネガティブな言葉に思いを託すやり方、単なるふわふわした理想に浸らないというブランドコンセプトには、Apathyのデザイナーがともに好んで聴いているというFrank Oceanの影響も見出されるように思う。気づいている方もいらっしゃるかもしれないが、ApathyのロゴはFrank Ocean(フランク・オーシャン)のセカンドアルバム『Blonde』(2016)で使用されているロゴにインスパイアされている★1。

Apathyのロゴ

フランク・オーシャン『Blonde』(2016)

現代のポップミュージックのシーンを語るうえでは欠かせない存在となったフランク・オーシャンであるが、洗練されたサウンドに乗せられるリリックは知的でありながらも、セクシュアリティや彼自身の性指向ゆえの苦悩がセルフボーストとともに赤裸々に綴られている★2。

冒頭に引いたのは、フランク・オーシャンのセカンドアルバム『Blonde』の3曲目「Pink + White」だ。この歌詞にも、日常に潜むコントロールできない問題に対して、肯定して(頷いて)、しかし、諦めるな(目を閉じてはいけない)というメッセージが読み取れる。こうした困難な現実を受け入れつつも、諦めず見つめ続ける姿勢が表れており、筆者は、Apathyの姿勢にも同様のものを見出した。私たちが皆それぞれの美しさを持っていながら、そこに自信を持つという困難さもApathyは認めている。下着をまとう自分は無防備で赤裸々だ。しかし、その生身の自分を見つめ、自信を持ち、愛そうという励ましをApathyの商品には感じる。

単なるサウンドや聞き心地だけがフランクの魅力だけではないように、Apathyもプロダクトの魅力だけではなく、それを着ることでポジティブな気持ちになったり、どんな自分でも愛することができるといったメッセージやストーリーに魅力があるように思う。

考えてみると、フランクは恋愛やセクシュアリティのなかで苦悩し、揺れ動く様を表現していたとしても、そこには一貫した「自分への愛」や、セルフボーストからも「成功したうえで自信を持っている自分」という芯があるように思える。

今回のユニセックス・パンツのデザインイメージを、デザイナーのナズさんは、このように語ってくださった。

「朝起きて、太陽をいっぱい浴びて、まるで光合成をしたかのように、自分の細胞が生き生きしていくイメージで制作しました。可愛らしいドットは、血液の細胞を表現しています。」

最初にデザインをいただいた時に、これが血液をイメージしているとは想像もつかなかった。もはやApathyが外観の美ではなく、生命力を作品として表現しようとしていることに驚きと笑みがこぼれた。このユニセックス・パンツは履く人間を生き生きと勇気づけてくれるアイテムだと思う。手に入れていただいた方々にはぜひ、Apathyのブランド名に込められたメッセージを感じてほしい。

★1──アルバムタイトルは『blond』とも『blonde』とも表記され、彼自身のセクシュアリティと、このアルバム自体が男性、女性いずれとの恋愛でありうることが示唆されている
★2──フランクは、自身のセクシュアリティをカミングアウトする勇気が出たのは、音楽的にも最も影響を受けたアーティストのひとであるPrinceのおかげだと述べている

He made me more comfortable with how Iidentified sexually simply by his display of freedom from and irreverence forobviously archaic ideas like gender conformity etc.

彼〔Prince〕が、性別の不適合みたいな古臭いマインドを相手にしないで、自由な態度を示してくれたおかげで、自分のセクシュアリティをより自然に見つけることができた。

identity
2021/10/16
執筆者 |
眞鍋ヨセフ
(まなべ・よせふ)

elabo youth編集長。映画、アート鑑賞、読書が趣味。

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