怒れる若者はどこへ行ったのか──「PUNK! 展」にみなぎる熱量と流れた冷や汗
「PUNK! The Revolution of Everyday Life」展のなかで、私は自分の社会に対する熱量がどれほど少なかったかを思い知った気がする。しかし同時に、励まされるような熱い何かを感じ取ることはできたかもしれない。
#パンク #ブラック・マスク&アップ・アゲインスト・ザ・ウォール・マザーファッカー
culture
2021/10/30
執筆者 |
國仲杏
(くになか・あん)

2000年、沖縄県生まれ。国際基督教大学4年。専門は平和研究、人類学。小学生の頃から沖縄戦についての平和教育を受けてきた。「継承」について考えるようになり、もっと発展した平和教育を目指して、大学では平和教育を専攻。副専攻は人類学だが、特にアートと平和の関係に興味があり研究テーマにする予定。

展示のなかで、私は自分の社会に対する熱量がどれほど少なかったかを思い知った気がする。しかし同時に、励まされるような熱い何かを感じ取ることはできたかもしれない。

北千住にあるギャラリー「BUoY」で、川上幸之介氏(倉敷芸術科学大学)がキュレーションを手がける「PUNK! The Revolution of Everyday Life」(以下「PUNK! 展」)が開催された。会場には、40代くらいから20代前半くらいの人が、パイプ椅子に腰掛けヘッドホンを着用しては、展示に見入ったり聞き入ったりしていた。多くの人は無言で楽しんでいたが、その目には燃える何かが見えた気がする。

私は東京の大学に通う3年生。専攻は平和研究で副専攻は人類学だが、学問の垣根を超えて幅広い学びを行なっている。平和はもちろんのこと、文化や人に興味があり、最近では「アートと人と平和」が相互にどんな影響を授受しあっているのかについて、特に関心を持っている。そのため、この「PUNK! 展」は、まさにドンピシャな内容だった。

そして、私はほとんどパンクを聞かない。パンクは、ただアグレッシブで、ノイジーで、そしてクレイジーという印象があった。幸いにも、私の高校時代からの親友がパンク好きだったため、パンク音楽が何を訴えるために叫ぶのか、そのシャウトの原動力は何なのかを、放課後のたわいもない会話で得た情報だけで、なんとなく知った気になっていた。しかし、この展示を通して私は本当の意味でパンクについて理解することができたように思う。そして、パンクがいかに社会的弱者の声を届けようとしていたのかという点で、軽い衝撃を受けたと同時に冷や汗が流れた。

展示は、「カール・クラウス」→「アルフレッド・ジャリ」→「ダダ」→「レトリスム」→「シチュアシオニスト・インターナショナル」→「ブラック・マスク&アップ・アゲインスト・ザ・ウォール・マザーファッカー」→「キング・モブ」→「クラス」★1→「ライオット・ガール」→「クィアコア」→「アフロ・パンク」→「インドネシアン・パンク」の順で構成され、それぞれ資料や映像を展示、上映していた。私のアートについての知識は浅いため、少々おこがましさがあるが、個人的にこの展示の構成を高く評価したいと思った。というのも、すべての作品において全体的な一貫性があり、大学の授業コースの構成に類似していたように受け取れたのだ。特に、「クラス」から「ライオット・ガール」の流れに沿って焦点を移すと、よりフェミニズム運動が顕著になり、話題の中心は男性から女性へと変わっていくことがわかる。そこで初めて、「クラス 」以前の展示作品中における世界平和や反戦、反資本主義には、女性という存在が排除されていたことに気づかされ、ハッとした。

そして、「ライオット・ガール」から「クィアコア」「アフロ・パンク」に進むと、ジェンダーという視点から、セクシュアリティの多様性へ、その次は人種へと、人々が訴える内容に変化が見られた。この展示の流れは、第1波フェミニズムから第2波、そして第3波へと続くムーブメントの変遷を思い起こさせ、時代の移り変わりに対応するパンク音楽を反映させていた。

さらに「PUNK! 展」は、パンク音楽と現代アートの親和性と相乗性を検討することを目的としている。そこで、ひとつだけピックアップするならば、「ブラック・マスク&アップ・アゲインスト・ザ・ウォール・マザーファッカー」に現代アート性を感じた。地域ごとによる不均衡な施策に対して行われたゲリラ・デモ「文化的交流──ゴミからゴミへ」は、ゴミという価値のないものを、別の地域に撒き散らしたりすることで、価値のないゴミから価値のないゴミを再生産している。その行為自体にメッセージ性という価値が付け加えられており、その点において、私はパンクと現代アートの繋がりを感じた。

UAW/MF “We Propose a Cultural Exchange”(1968)筆者撮影

上でも述べたが、私は「PUNK! 展」を楽しんでいた一方で、冷や汗が流れる感覚があった。なぜなら、パンク音楽が社会に対して持つ怒りやその熱量に圧倒され、自己や今生きている社会を見つめても、それと同様のエネルギーを持っていないことを思い知らされたからだ。会場で放映されていた「クラス」のドキュメンタリー映像のなかで、バンドボーカルのスティーブ・イグノラントが印象的な一言を放っていた。怒れる若者はどこへ行ったのか」。この一言が胸に刺さった。

アレクサンダー・エイ “There Is No Authority But Yourself”(2006)筆者撮影


もちろん私は、政治に無関心で声を上げることさえしない若者ばかりだと言いたいわけではない。多くの若者が不平等を訴え、弱者を守るために行動しているのは事実だし、話を聞いてほしくて声を上げている人もいる。ただ、パンクに比べると、まだ静かに思えてしまうのだ。私はデモに参加したこともあるし、署名活動を行ったこともある。それが不十分だとは言わないが、エネルギーを持って人の心を動かす、もしくは誰かの熱に動かされた経験はないに等しい。それはきっと声を上げるという行為自体が、SNSで情報を拡散することとほぼ同等なまでに熱を奪われたからかもしれない。そう考えると、SNSがない時代に、怒りや思いをシャウトし多くファンを獲得していたパンク音楽に、今の若者は及ばないのかもしれないと悲観的になる。さらに印象的だったのは、ここ最近日本社会に浸透してきたフェミニズムやクィアに関する関心や知見が、80年代のパンクではすでに地位を確立していたことだ。日本社会の遅れをとても感じることとなった。これらすべてが要因で、私は冷や汗をかいたのだと思う。

ヨニー・レイザー “Queercore: How To Punk A Revolution”(2017)筆者撮影

先ほどと同じ「クラス」の作品中で、スティーブ・イグノラントは大事なことを教えてくれた。それは、怒りをそのままぶつけないことだ。「感情的ではダメだ。何に不満を持っているのかを政治的、詩的な表現で訴える」と彼は言っていた。それが、パンクがパンクとしてあり続ける理由であり、パンクが現代アートと共鳴できる理由なのかもしれない。

「PUNK! 展」を鑑賞したあとには、熱狂的なパンク音楽がただアグレッシブ、ノイジー、そしてクレイジーなだけという偏見はなくなっていた。未だに私はパンクを語ることはできないが、パンクに魅せられたことは事実で、ほかの鑑賞者の目に熱気が感じられたのと同様に、私の目にも活力がみなぎるような感覚があった。

パンク音楽も現代アートもよく知らない私でも、「PUNK! 展」は見応えのある素晴らしい展示だった。もしかしたら、パンクを知らなかったがゆえに得られたものもあるかもしれない。怒ってる若者でなくてもいい、パンクに精通してなくてもいい、現代アートを知らなくてもいいから、ぜひ「PUNK! The Revolution of Everyday Life」に足を運んでほしい。きっと何かアツいものを感じられると思う。


★1──クラス(CRASS)
セックス・ピストルズ、クラッシュ等が資本のスペクタクルへと回収されるなか、アナキスト・コミューンを拠点として1977年にクラスは結成されました。彼らは音楽活動を核としてフェミニズム、反戦、反核、環境主義を直接行動により提唱していきます。本展ではパンクの根幹であった異議申し立てを資本のスペクタルから奪回し、「パンクの中の『修復的な』反体制運動であり、政治的な転覆を図るシステムとしての重要性を再確認させることを目的」としたアナーコ・パンクの始祖。──展示キャプションより引用


巡回展

長崎:

2021年11月5日(金)〜11月13日(土)

アラタバ2F(すみれ舎 長崎県長崎市田中町911)

https://sumiresha.wixsite.com/jokokai

新型コロナウィルス感染症対策により、スケジュールの最新情報は公式ウェブサイトへ


福岡:

2021年12月3日(金)〜 12月9日(木)

平日(月〜金)15:00〜20:00 、週末(土日祝)13:00〜20:00

アートスペース・テトラ(福岡県福岡市博多区須崎町2-15)

culture
2021/10/30
執筆者 |
國仲杏
(くになか・あん)

2000年、沖縄県生まれ。国際基督教大学4年。専門は平和研究、人類学。小学生の頃から沖縄戦についての平和教育を受けてきた。「継承」について考えるようになり、もっと発展した平和教育を目指して、大学では平和教育を専攻。副専攻は人類学だが、特にアートと平和の関係に興味があり研究テーマにする予定。

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