眞鍋ヨセフ|24歳。elabo youth編集長、Kendrick Lamarを敬愛するHiphopオタク。映画、アート鑑賞、読書が趣味。
小林タカトモ|東京大学4年生。コロナで大学がオンライン化されたことや、予定していた留学に行けなくなったことなどがきっかけになり、政治家を志すようになった。いまでも無党派層という意識もあるが、当分の間は立憲民主党を支持する立場。Twitter: @monsieur_absolu
かぎろひ|21歳、大学3年。尊敬する人物はムスタファ・ケマル・アタテュルクとシャルル・ド・ゴールであり、座右の銘は「剛毅木訥」。堂々としているが、つかみどころがないと評されたことがある。
長井真琴|田舎出身の大学4年生。4年目にして、やっと都会の生活に慣れてきた。ひとりの時間が好き。
日下彩|四国生まれ四国育ちの22歳。大学では地域活性化活動に打ち込んでいる。
Erie Kawai|2001年生まれ。国際バカロレア取得後、モナシュ大学に在籍し、政治とメディア学の同時専攻する。日々海外のメディアや大学の授業を通して、日本の視点との違い注目しながら社会問題を扱う。
眞鍋ヨセフ
今回の衆議院総選挙では、芸能人の方が投票を呼びかけたり、SNSや周囲でもけっこう「選挙に行こう」と投稿する人が若い世代にいたりしたので、漠然と「投票率が上がったはずだ」と期待していたんですけども、結果的には、狭い範囲内でエコーチェンバー的に盛り上がっていという状況だったように思います。蓋を開けてみたら「選挙が盛り上がっていると思っていたけれど、そうでもなかったんだ」みたいなガッカリ感というのが、選挙直後にはelaboのメンバーにもありました。
維新の会に関しては、ある程度は勝つだろうと予想はしていたので、維新が議席を伸ばしたこと自体には驚きはありませんでした。ですが、大阪の議席が維新と公明だけで占められたというのには衝撃は受けたのも事実です。同時に、自民党がある程度減らすことは予想していましたが、自分の予想をはるかに超えて、維新が大阪という地域で圧倒的に強いという事実を見せつけられました。ガッカリするというよりは、衝撃を受けたというのが正直な感想かもしれない。
大阪に住んでいる友達から維新に対する印象や選挙結果なども聞いたのですが、ほとんど維新に入れてる。その子たちが共通して言ってたのがとにかく「知っていることが重要」ということでした。自分の選挙区の候補者の名前は知らなくてもテレビを通して吉村洋文府知事は知っているので、知っている人間が代表をしているところに入れようという考えです。僕個人としては維新を支持していないので、「なんで? コロナの対策とかいろいろあったやん」みたいな感じで聞いたんです。すると、コロナ対策で不手際や足りなかった部分は客観的に見ればあるかもしれないけれども、そのネガティブな側面と自分が維新を評価していること、そして知名度を比較したときに、信頼できなくなることはないと言われました。
小林タカトモ
僕は東京在住で立憲ユースとしても今回選挙運動に関わりました。東京のなかでも地域によりけりなんですけれども、総じて東京、神奈川、千葉あたりの南関東に関しては、いわゆる野党共闘と選挙協力はかなり成功したという印象はあります。もちろんうまくいかなかったところもあるんですけど、特に僕が今回応援に入ったのが中央線沿線で、協力が成立しなかった東京22区(三鷹、調布市、狛江市、稲城市)以外では立憲民主党の候補者は小選挙区で当選した人も多く、比例復活もしているので、全国的な評価はともかく東京に関しては野党共闘がかなり成功したという印象はあります。維新は東京でも候補者が何人か出ていたんですが、東京1区(千代田、港、新宿区)からはもともと知名度のある小野泰輔さんという方が出て、本当に三つ巴になった結果として立憲の海江田万里さんが小選挙区当選できなかったということもありました。一方で、ほかの東京のなかで維新の候補者が立った選挙区に関しては、維新が自民の票を削ったために立憲の議員が当選できたというところもあると。
かぎろひ
私はおそらく今回の座談会のなかでは唯一の自民党支持者です。今回の選挙では、支持者から見てもやはり自民党は少し議席を減らしそうだとは思っていました。そして、本当にその通りになりました。維新に関しては、ある程度伸ばすだろうけれどもいつも通りそこまで伸びることはないだろうと思っていたら、ものすごく伸びていて正直驚きましたね。私の実家は東京でして、現在学生として住んでいるのが兵庫県なんです。小林さんが指摘してくださったたように、東京近辺に限ればある程度は野党共闘が成功したと思います。一方で私が今住んでいる兵庫7区(西宮市)は、自民党の山田賢司さんが小選挙区で当選していて、比例で維新の三木けえさんが当選しているという状況になっていました。得票数は山田さんが9万5140票、三木さんが9万3610票なので、結構僅差です。吉村知事が「コロナにはイソジンが効く」とか発言してしまって、一時期かなり非難されていましたけど、改めて今回は大阪圏での維新の支持の強さを目の当たりにしたと思います。なんだかんだ言って、やっぱり維新って関西を中心にすごく露出が多いですから、その影響が実際に大阪近辺にも波及し始めて、これだけ維新が伸びるかたちになったのではないかと私は考えております。
長井真琴
いま大阪と東京という都市圏の話でしたが、基本的に自民の地盤が強いとされる地方はいかがでしょう? 私の地元は愛媛1区(松山市)なんですけども、かつて厚生労働大臣を務められていた塩崎恭久さんの息子である塩崎彰久氏が今回初めて出馬し、当選されました。塩崎恭久氏の父親も元議員のため、2世どころではなく3世議員なんですよね。このような世襲政治家が出てきて、初出馬でもすんなりと勝ってゆく、この地方の変わらない様子を遠い目で見ていた感じです。
日下彩
私は自民の地盤を立憲が小選挙区で破ったということで注目された香川1区(高松市、小豆郡、香川郡)なんですけど、住民票は徳島県のままなので投票はしていません。卒論の関係で小豆島の移住者の方にインタビューをする機会があって、そこで私は小川淳也さんを初めて知りました。それまで政治に興味がないし、投票しても現実は本当に変わるのかなという疑念があったので、どちらかというと傍観者という感じで見ていた部分がありましたけれど、移住者の方のお話を聞いているなかで、政治がどうというよりも、小川さんという人がすごくピュアな方で政治家らしくないというお話を聞いて興味を持って、気になる存在として見ていました。
香川1区は自民党が地盤としては強く、平井卓也さんが牛耳っている選挙区で、私が関わる機会が多かった小豆島も保守的な層が多いそうで、前の選挙の時も小豆島における小川さんの票は少なかったらしい。そういった強い地盤があるところでも小川さんはすごく地道に本当に泥臭く、一人ひとりの声を聞いている姿勢が伝わってきました。あとSNSでも自ら発信をしていたりとか、政党がどうというよりも、小川さんという人自身が人に寄り添って発信することで、周りにも影響を与えていて、私も政治に対する興味を持とうと思うきっかけになりました。私は政策的な観点からは語れない人間ではあるんですけど、そういう人に動かされて「この人だったら信じてみようかな」という気持ちになり、小川さんがずっと抱いている思いを選挙区の皆さんが感じ取って、香川1区自体が変わって、逆転できたのかなというのを感じています。政治や選挙に興味がない私でもすごく熱くなって見ることができた選挙だったなと感じています。
Erie Kawai
私は静岡5区(三島市、富士市など)で、維新の影響もなく、小選挙区に関しては今までと同じ結果となり、特に変化を感じませんでした。所属政党を変えながらも細野豪志さんが2000年頃から8回連続で勝ち続けていて、静岡5区は政党よりも個人が強い地域だと考えています。彼は無所属でしたが、もともと民主党で、今回選挙前に自民党への参加を決意し表明したという経歴があります。これにより、支持率が下がるのではないかと思いましたが、結果、細野豪志さんは2位の候補者に倍の票差をつけて勝ちました。得票数12万というのは、ほかの候補者のすべての票を足してもなお細野さんが勝つくらい圧倒的なんです。この状況を受けて、私は、有権者は政党や政策より名前の知名度で選んでいる節があるのかもしれないと思いました。
elabo編集部
小林さんが以前おっしゃっていたことでとても印象的だったのが、自民のすごいところは、地元に強固な地盤を持っていて、全部それが細かい組織まで行き渡っているということです。一方で、立憲は地方議会にも入っておらず、地元での基盤が不安定ということがあると思うんですけれど、香川1区の平井さんはいわゆる地元の名士でがっちり票田を持っているのに対して、そこに小川さんがある意味ですごく泥臭く活動してこられたんじゃないかということを日下さんが仰った。小川さんご自身も、戦略的にそういう地元密着のアプローチをなさった結果として、すなわち立憲の今までのやり方と違う方法をとったことで成果が出たということなのかと思うのですが、そのあたり小林さんはどう思われますか?
小林
これはわりとよく言われることですけれど、自民党がシステムそのものになっているところがあります。日本全体に張り巡らされた、ボトムアップで意見や利害関係を集約するためのシステムで、商工会とか農協とかそういう団体の声を地方議員が上に上げて、、それを集約する仕組みができあがっている。なので、先にそういう仕組みを作り上げたほうが選挙に強いのは当たり前で、戦略としてはいいんですけどね。僕は、さっきの小川さんについては、泥臭いことを地道にやって当選した、というふうには見ていません。先ほど日下さんご自身も、もともと政治に関心があるというよりは小川さんという人物のことを聞いて興味をもったとおっしゃいましたけれども、小川さんに関しては映画や書籍といったメディア露出が爆発的に増えた影響が大きく、ある意味でさっきの維新と同じ勝ち方をしたというふうに見てます。加えて、平井さん自身の失態があり、相対的に若くてひたむきな人が最近やたらいろんなところに顔を出している、じゃあ応援しようみたいなことになったと思うので、正直小川さんが政策的にどういう人なのかを全員が理解してるわけじゃないんだろうなって思います。
elabo編集部
今回小川さんは、アイドル的に人気が出たというか、歓声が沸くみたいな、それぐらいのところまで行ってたんですか?
日下
私が実際に小川さんを見たのは2回しかなくて、1回めは大学前を通った選挙カーに小川さんが乗っていらしたという感じでした。初めて見たので、「小川さん本人が手を振ってる!」と思って私は手を振ったんですけど、一方で周りの学生は結構スマホいじって知らんぷりっていう感じではありました。学生よりも、道端を歩いていた地元の方が手を振っていた印象もあります。2回めは演説をされていた時だったのですが、香川の大きな駅で、年配の方が多いのかなと思っていたら、意外と高校生や私たちと同じ年代ぐらいの人たちが一生懸命聞いていたのが印象的でした。アイドル的な支持のされ方ではありませんでしたが、幅広い世代の方たちから支持されているんだなという感じは強くありました。
長井
小林さんは、香川一区の小川さんの勝因は、草の根的な活動の成果というよりは、むしろメディア露出、言わば維新と似たような勝ち方だったのではないかとおっしゃいました。維新のメディア露出の話、またKawaiさんの選挙区の細野さんの件も含め、結局政治家個人の人気で勝っているという報告が多い気がしますし、小林さん自身も以前、政治家もある種のキャラクターというかそういうところで、求心力を高めて勝っていくタイプがこれから多くなるんじゃないかとお話なさっていましたよね。
小林
そう言いましたね。小川さんに関しては、個人のキャラクターが強かったと思います。都知事選から今回の選挙まで関わったなかでも、やはり「政策」というのは選挙の勝敗を決める要素として必ずしも強くはない。むしろ熱烈な支持をしている人ほど、その候補者の「キャラクター」に魅力を感じているということを強く感じました。維新も、吉村さんや松井一郎さん(大阪市長)のキャラクターが強いので、結果として維新という政党がラベルとして機能する。吉村さんの党だから応援する、といったような感じで。都議選の時も小池百合子さんの党だから応援するというところがあったので、やはり政策本意の選挙にはあまりなっていないと思います。
elabo編集部
この状況を小林さんはどう評価するのでしょうか。
小林
僕は全然嬉しくないです(笑)。
Kawai
それは政策よりも個人のキャラクターを重視する、いわばアイドル投票みたいな選挙を憂いているということですか?
小林
そうです。
Kawai
私自身には、日本の政治って、欧米との比較においては、そこまでアイドル投票になっていないように見えるのですが。例えば、アメリカの政治を見ていると、選挙が若い有権者の間で盛り上がっているのはいいのですが、よりキャラクターを重視の選挙になっているように感じます。例えば、AOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)旋風っていうのがあって、彼女は動画の切り取りなどで話題になりましたが(AOCのタグがつけられたTikTokの投稿の視聴回数は12億回)、結局ポリシーというより、彼女個人のキャラクター人気という部分が大きくなってしまった。日本でアイドル的な政治家となると、私のなかでは橋下徹さんのイメージが強いです。ポリシーよりも、彼の面白さやラディカルさなどが人気になっている。ほかには小池百合子さんなども思いつきますが、正直それ以外は、日本の政治家では思いつきません。
小林
橋下さんとか小池さんが目立つのは、大阪や東京という大都市の知事で、全国的に知られているからです。一方で小さな選挙区単位で見れば、日本ではそういうアイドル的な賛同というのは広く見られると思います。アイドルっていう言葉を使ってしまうと、イメージされるものとだいぶかけ離れてしまうのですが、昔から自民党支持の堅い地盤などは「自民党の先生は昔からよくやってくれてる」といったような人間関係が成立していて、そういう意味でアイドル的と言えるかと思います。ちなみに僕は、AOC現象に関してもあまり評価していません。
眞鍋
そもそも政策で区別できるのかという問題もありますよね。たとえば自分も、投票前には各候補者のオフィシャルサイト等は一通り見て、どういうことに力を入れているのかは確認します。ですが、「子育て支援」や「市民の皆様が活躍できる」といったようなことは誰もが言っているように感じました。僕の選挙区で言えば、維新の候補者は国政に関することまったく主張していないように見えました。例えば、子育て支援とか、地域社会をもっと豊かにするか、地元のことにしか触れてない。そうなると、政策での差別化ができなくなってくるので、キャラクターが重視されるようになってしまうのが容易に予想できるんです。逆に、キャラクター的に「嫌い」という感情からくる反動で投票する、という動機もあると思います。たぶん僕自身もそうで、維新ではなく自民でもない候補者で、というふうに消去法での選択になっていることは否定できません。
長井
私は、個人のキャラクターに関心がないので、この「キャラクターが重視されてしまう」状況をどう理解するべきなのか分かりかねています。というのも、「結局最後は多数決」という意識があるんですよね。例えば、改憲が最たる例ですが、どの程度の賛成がないと手続きとして認められないという決まりが明確にありますよね。そこで、所属政党を見ることで、その候補者が最終的な意思決定の際に何に賛成・反対するのかということを大枠としては理解できるのではないかと考えて、政党重視で選んでいます。
かぎろひ
私も基本的に政党ありきで考えています。ただ、さきほど指摘されていた政治家個人のキャラクターに左右されて投票先を選んでしまう現象に関しましては、自戒を込めてですが私もどこかでやってしまいそうな気がします。選挙は結果が大事なので他の候補者よりどれだけ差別化していけるかっていうところが勝負になっていると思います。それで結局キャラクターの強さに惹かれるかたちで投票してしまうと、政治環境が不安定になる可能性もありますし、理念がないというか、有権者から見れば威勢のいいことを言ってたから期待していたのに、結局大したことがなかったということになりうる。なので、政党で見るほうが責任はとれるし、確実なのではないかなと私は考えています。
小林
まず差別化に関して言うと、大きな政党ほど、キャッチオール(包括政党)というんですけど、規模が大きくなるほどいろんな層からの支持を獲得しようとするので、大政党同士の差が見えづらくなります。これがアメリカやイギリスみたいな二大政党制になると、それが前提の対立軸ができ、明確に差がわかるのですが、日本みたいな中途半端な状況だと大政党同士の差は一層見えづらくなります。このような状況で、どちらとも違うと言っている維新みたいなのが出てくると、そこが際立つことになる。
また、「キャラクターで投票先を決めてしまう」という問題に関して最も深刻な点は、事後的な検証ができないことです。キャラクターに信頼を寄せて投票して当選した場合、単にそのキャラクターに魅力を感じただけで、何も契約をしていないので、候補者が有権者を裏切っても「そんな人だと思わなかった」というだけで終わってしまう。これが続くと、有権者が政策に基づいて国を動かすということがいつまで経っても起きません。これでは、名君を期待する臣民、つまり良き統治者を期待する臣民の発想になってしまいます。代議制民主主義というのは有権者が自らの代理人として議員を送り込むという仕組みですから、キャラクターで選んでしまうのは、代議制民主主義の本質に反していると思っています。
長井
私は、政治家個人をそもそも信用できないと思っています。政治家ひとりの周りには合法的であれ、特定の組織や個人との利権的な繋がりが絶対にあるので。なので、自分たちの代理人としての政治家に信頼を置くならば、政党が主張していることを参考にしながら政策ベースで選ぶという認識でいました。
小林
長井さんの話は、政治家というのは一般に信頼できないって話ですよね。それは僕もそう思います。政府・政治家というものが権力を握れば当然それに付随しているものがいろいろ発生するので、例えば維新やれいわ新選組が、今は本当に利権とのしがらみが少なかったとしても、彼らが当選していき、実際に権力を手にした暁には、人徳的な問題ではなく、構造的にどうしても利権が周りに生じていくものだと思います。そういう意味では政治家を、個々の人格がどうこうではなくて、構造的に信頼すべきではないと考えるのは正しいと思います。そしてだからこそ、キャラクターではなく、政策を信頼すべきだと思います。
長井
維新についても、政策ではなく、コロナ禍で自民党に対して不信感が募っていた有権者の要望を上手く吸い上げるかたちで議席を取ったという分析があります。先ほど小林さんもおっしゃっていましたが、自民も野党も支持できない人たちの受け皿的なところに維新があったという説明が私はとてもしっくりきました。
elabo編集部
話を聞いていると、誰が不満を吸い上げるか合戦みたいになっている感じがしますね。香川1区の小川さんもある意味では、平井さんが有権者の不満を募らせたことが勝因のひとつなので、そうなると、維新と似たような勝ち方をしたとも言えますね。政治家を目指している小林さん、政治家は、不満を利用する以外の方法で、どう有権者にアプローチをしたらいいのでしょうか?
小林
それがね、僕も非常に悩んでいます。熱狂的な支持による1票も、嫌々入れる1票も、実際の投票では同じ1票としてカウントされる。これに関しては、じつは枝野幸男代表が選挙が本格化する前に言っていたのですが、「風が吹いて起こる政治的な変化というのは全然当てにならないものなので、嫌々選択されて政権交代が起こるのが望ましい」と。僕もそう思います。
elabo編集部
バイデン大統領みたいな勝ち方が理想だったんでしょうね。
小林
そうです。そういった消極的な支持者をどれだけ獲得していけるかという面においては、現状自民党が一番強いですね。
Kawai
それでは、なぜ維新は強かったんでしょうか?
かぎろひ
これはあくまで私の推測にすぎないですけれども、こちらの記事「維新の躍進は予想通り? 『ポピュリズム』という評価は的外れ?大阪で自民党が全敗した理由」(千葉雄登)にも掲載されている「政党拒否度」の項目において、一番高いのがN国、次いでれいわ、日本共産党となっていますよね。「自民党が嫌」という無党派層がいたとしても、立憲民主党がれいわや共産党といった拒否度の高い政党と組んだことで、風評被害を受ける形で支持を広げることが出来なかったと思うんです。一方で、このなかで名前が出ている政党では、維新が最も拒否度が低い。そこにメディアの露出も相まって、「まあ頑張っているから」と投票した人が多かったのではと私は見ています。
小林
僕もそうではないかと思います。今回、立憲・共産・社民・れいわでなされた合意は、あくまで政策ベースなわけです。政党同士がキャラクターに基づいて合意するということはありえないので。あくまで一定の範囲の政策について協力できる範囲で協力するというだけの話なので、例えば立憲は共産党と安全保障・天皇制といったトピックで見解が異なりますし、そこに関しては合意の範囲外だと言っています。そういう「政策ベース」で「協力できる範囲」の協力という、ある意味では政治家として当然の行動なわけですが、そういう思考方法が有権者の側にあまり馴染んでいないのだと思います。「共産党」というのも、あくまでキャラクターとして捉えられている。キャラクターではなくポリシーを見ろという僕の主張はそこにも関係してきます。
Kawai
今までさんざんキャラクターを見るな、つまりポピュリズム的な選択をすることの危険性を議論してきましたけれども、ポピュリズムは世界的現象であって、私がすごく絶望しているのが、今まで日本って西洋諸国の真似をしていればよかったというところがあったと思うんですが、この問題に関しては欧米のほうがよっぽど酷いというところなんです。北欧などの成熟した社会でも極右政党が台頭してきている。だからこそむしろ、もしかしたら日本のほうにこそポピュリズムを打開できる案があるんじゃないかって、ちょっとすがるような思いもあるんですよ。
小林
日本でポピュリズムが欧米に比較して強くならないのは、無党派層が多いからです。そもそも政治参加に対する意欲が低いので。ポピュリズムを含めて、政治参加はエネルギーを必要としますから、ポピュリズムが発生するほどの意欲が日本人の多くにはないということでしょう。だから、「ポピュリズムが発生しない」ことが、欧米と比較して望ましい状態かというと、必ずしもそうとは言えないと思いますね。だからといって、日本でポピュリズムが流行して嬉しいかと言えば別にそんなことはないですけど。
Kawai
だから、この「無党派をどうポピュリズムから遠ざけるか」という点がだいぶ難しいと思うんです。染まってほしくないんですよね。
小林
ですから、さっきから再三言っているように、政治家を選ぶ基準がキャラクターではなくてポリシーであるべきだということですね。
Kawai
そのためには、教育で訴えていくというようなやり方しかないんですかね。
小林
ポリシーではなくてキャラクターに注目してしまうのは、「自分がそのポリシーに関係している」という感覚を得ることができない人が、候補者のキャラクターに惹かれて、熱烈に支持するということだと思います。なので、ポリシーによる包摂の範囲をどこまで広げていけるかっていうことですね。
投票率を上げようということはよく言われますが、もしそれが実現したら何が起こるかというと、社会の分断が深まります。投票するということは、「自分のポジションを持ってそれを明らかにする」ということなので、そのような人が社会のなかで増えれば、当然分断が深まっていくわけですね。だから現状日本でも社会の分断が深まっていると言われますけど、欧米ほどではないんですよ。なぜかと言えば、そもそも自分のポジションというものを持ってない人が多いからです。
elabo編集部
日本でそこまで分断が強まらないのは、政治参加の意志が弱いからだけれど、結果的にそれが日本を表向き平和にしているという、すごくパラドキシカルな状況にありますね。
小林
対話が不可能なまでに対立が広がってしまうと、本当に分断ということになるわけですが、対話可能な範囲で対立しているぶんには生産的な議論が起こる可能性があるわけで、むしろそのような対立が、政治的なエネルギーを生み出すと考えています。どんどん対立したらいいと思います。
かぎろひ
私自身は、バランスを取りたい、安定していてほしいと願うのですが、間違いなく言えるのは、政治に対する意識は絶対に高まったほうがいいということです。そうしないと何も変わらないですから。ただ、対立があって、そのなかで調整を通して生産的なことが生まれてくるというのはもちろんあると思いますが、現状として右も左も極端な人が少なくないなかで、ぼんやりとした無党派的な層が極右・極左に簡単に染まってしまって、簡単に対立ができあがって修復不可能な分断に至ってしまうことを危惧しているんですよね。
Kawai
さっきの「パラドキシカル」という言葉で思い出したんですが、投票を呼びかける側って、どちらかといえば野党支持者あるいはアンチ自民的な人が多いと思うんですけど、でもたぶん呼びかけた結果勝つのは自民党ではないかと思っていて。だから、「日本で投票率が上がると分断が深まる」というのはすごくわかるものの、でも政治的関心が低い人が多い現状を踏まえると、対立が深まるというよりは、今の与党第一党である自民党がただただ強くなるだけなのではないかと想像します。
眞鍋
投票率の上昇がどういう働きかけの結果として起こるものなのかも大事だと思います。例えば、投票の義務化によって投票率が上がるのでしたら、自民党は圧勝するのかなと思います。先ほど小林さんが「嫌々の一票を増やして勝ちたい」という旨の枝野さんの発言を引用されていましたけども、そういう「他が嫌だから」という層がおそらく自民党に流れるだろうと考えるからです。
けれども、政治への関心が高まって選挙に行くこともありうると思うんです。政治参加への責任感や現状への不満などが高まったうえで投票率が上がることもありうる。そうなると、仮に自民党が議席を伸ばしたとしても、野党の得票数も上がるだろうし、分断が生まれたとしても対話は生まれやすい状況になるのかなと僕は思っています。無関心な層にどれだけ思考のきっかけを与えて、議論に巻き込んでいくかということが大事だと思います。結論としては、啓蒙が必要というありきたりなところで終わってしまうんですけれども。
かぎろひ
もし日本でも投票を義務化してしまったら、それこそ先ほどまで話題になっていた「キャラクターで人を選んでしまう」という傾向がより強まってしまうのではないかと思います。なので私としては、義務化には反対で、皆さんおっしゃっているように教育による啓蒙が必要と考えています。
小林
そうですね、まず「どのような理由による1票でも、価値は平等である」というところは民主主義の前提として崩すべきではないですね。そのうえで、さっきから出ている「教育が重要」は言えると思っていて、ここでいう「教育」というのは、一定の年齢に達するまでの間に学校で教えられるものだけでなくて、生涯のなかで社会的関係が生じるものすべてのことを意味します。「政治の側が政策的に人々を包摂していく」ということも教育だと思うんです。だから、各政党や政治家など、政治に携わるアクターが、政治的な意識を高めるための機会を、国民にどれだけ提供できるかというところが重要になるのですが、現状ではそれがあまり働いていません。選挙のときだけ「投票に行こう」と言うみたいなことになっています。
Kawai
政治が「日常」になっていないというのが日本の問題だと言えるでしょうね。
小林
政治が日常になっていけばいくほど、広い意味での教育や啓発の機会が一生を通じて生まれて、各人が政治に対するポジションを取るようになる。その結果、社会が組織化されていくわけですね。義務化されていなくとも投票率が高い北欧などは、そのようなかたちで一定のポジショナリティに応じて社会が組織化されていっているわけです。社会が組織されていくっていうことがまず重要で、そうなると、さっき僕が言ったようにある意味では分断が深まるわけですけど、そもそも自分のポジションを持ってない人が大量にいる状況よりははるかにマシなので、まずはそこを目指していくべきだろうと思いますね。
[2021年11月11日、Zoomにて]
眞鍋ヨセフ|24歳。elabo youth編集長、Kendrick Lamarを敬愛するHiphopオタク。映画、アート鑑賞、読書が趣味。
小林タカトモ|東京大学4年生。コロナで大学がオンライン化されたことや、予定していた留学に行けなくなったことなどがきっかけになり、政治家を志すようになった。いまでも無党派層という意識もあるが、当分の間は立憲民主党を支持する立場。Twitter: @monsieur_absolu
かぎろひ|21歳、大学3年。尊敬する人物はムスタファ・ケマル・アタテュルクとシャルル・ド・ゴールであり、座右の銘は「剛毅木訥」。堂々としているが、つかみどころがないと評されたことがある。
長井真琴|田舎出身の大学4年生。4年目にして、やっと都会の生活に慣れてきた。ひとりの時間が好き。
日下彩|四国生まれ四国育ちの22歳。大学では地域活性化活動に打ち込んでいる。
Erie Kawai|2001年生まれ。国際バカロレア取得後、モナシュ大学に在籍し、政治とメディア学の同時専攻する。日々海外のメディアや大学の授業を通して、日本の視点との違い注目しながら社会問題を扱う。