西田海聖
いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。
新たな変異株による感染拡大のニュースに疲れを感じざるをえない2022年も、もう1月が過ぎようとしている。この年の始まりには、世界中のK-POPファンを励ます盛大なイベントがあった。BTSやTOMORROW X TOGETHERが所属している事務所HYBEによって、2022年が始まる瞬間をアーティストとファンが一緒に楽しむグローバル音楽フェスティバル「2022Weverse Con [New Era]」が2021年12月31日にオンラインとオフラインで同時に開催されたのである。テーマである[New Era]には「困難な時期を乗り越え、再び共に歩んでいける新時代を目前に控えたアーティストとファンのための献辞」という意味が込められていた。そんな、新たな年を爽やかにスタートしようと思わせてくれるフェスティバルを世界117カ国のファンが視聴した。
今回行われた「2022 Weverse Con [NewEra]」はJustin Biberが出演していたことでも話題になった。他にもBTSは言わずもがな、Lady GagaのアルバムにBLACKPINKとのコラボ曲が出されたりなど、最近はK-POPアーティストと世界的なアーティストとのコラボを見ることも増えてきた。「K-POPのリスナーは過去6年間で2000%以上増加し、リスナーは1億2000万以上のスポティファイ・プレイリストにK-POPの曲を追加している」というデータもあるほど、今やK-POPは多くの人に支持されるカルチャーになった。
なぜK-POPはこれほどまでに人気を博したのだろうか?インターネットの普及と同時にK-POPは成長したと言われているように、その魅力はSNSなどのコンテンツと切り離せないが、音楽性やダンス技術、演出などの要因も無視できない。
「聴く音楽」としてK-POPをみたときには、記憶に定着しやすい「繰り返されるフレーズや曲調=フックソング」を用いていたり、一つの曲の中で複数のジャンルが混在していてもリンクされているサウンドなど、グループや曲によって持つ性質は異なるが中毒性が高いものも多く、ジャンルレスで全てを網羅したサウンドを開拓している。
そして、「観る音楽」としてのK-POP──BTSのMV分析から垣間見るでも言及されているようにミュージック・ビデオ(MV)には、衣装や髪型、メイク、MVの構成などで細やかな演出を加えることで観る者を「飽きさせない」工夫が何重にも仕掛けられている。
特にダンスの振り付けによる視覚的なインパクトも重要で、厳しい練習生期間を経てデビューした彼ら/彼女らによって披露される、高い難易度のダンスと息のあった動きは、圧倒的な魅力を放っている。また、カムバック(オフシーズン=準備期間を終えてオンシーズン=活動期間になること)毎に新鮮な振り付けを披露してくれるのは、BTSのように曲ごとに違った世界中の振付師とコラボしていたり、Itzy のように一つの曲に複数の振付師の作品を融合させたりするからだろう。
さらに、MVで公開されるダンスの中には、特徴的な「ポイントダンス」と言われるものが多く見られる。何重にも演出が仕掛けられたMVは思わず連続で何度も見てしまうが、観ているうちに特徴的なダンスは自然と頭にインプットされて、見終わる頃には踊りたくなることが多々ある。少女時代やItzyなどのグループと仕事をした振付師のLia Kim氏は「レーベルは特に、記憶に残りやすく続けやすい振付を要求してくる」と述べている。
このようなKim氏の発言からも、K-POPのプロダクションが意図的に、ファンが真似しやすいように工夫していることは明らかで、だからこそSNSと共に成長したのだろう。若いリスナーはTikTokなどの短い動画を発信できるSNSで、自分が振り付けを踊ったダンスをアップするのだ。またレーベルがMVとセットで「Practice Video」(多くは固定された画角でダンスやフォーメーションにフォーカスしやすい動画の事を指す)をYoutubeで公開するのは、曲と同じくらいダンスが注目されているからにほかならない。世界各地のファンが「K-POP in public」というフルバージョンのカバーダンスの動画をYoutubeにアップするサブカルチャーまで生まれ、もはや模倣によってK-POPカルチャーに参加するファンが各グループの広告塔になっている。
BLACKPINK ‘뚜두뚜두 DDU-DUDDU-DU’をカバーしたGUN Dance Team from Vietnam の[K-POP INPUBLIC CHALLENGE]動画の再生回数は3642万回再生(2022/01/26時点)
ファンの参加はダンスだけにとどまらない。I.O.IやWanna One、IZ*ONEを輩出した「PRODUCE」シリーズ(不祥事が発覚してしまったが)や、最近でいうと「GirlsPlanet 999:少女祭典」といったオーディション番組では、視聴者の投票数がデビューするメンバーを左右するように、ファンとアーティストの関係はさらに直接的なものになっている。20年以上にわたって特定のK-POPグループのファンダム調査を続けている四川大学ピッツバーグ研究所の助教授であるJeong氏は以下のように語っている。
2020年のK-POP関連のツイートは67億件だと記録されているが、ここまで紹介してきたようなファンを巻き込む参加的要素が、K-POPを世界中に普及させた理由だと考えられる。
このように今やK-POPのファンは世界に溢れている。そして世界を魅了してきたからこそ、K-POPにも、アメリカのポップカルチャーで言うところの「スタンカルチャー」が存在していることを認めざるを得ない。「スタンカルチャー」とは当初、単にセレブリティや芸能人の熱狂的なファンを指す言葉だったが、最近ではオンラインコミュニティで、通常のファンよりも熱狂的なファンを意味する言葉として再定義されているそうだ。この言葉は、意外にも2000年にラッパーのエミネムによって、"stalker "と "fan "の合成語として作られた。K-POPのみならず、ファンが視聴しているコンテンツクリエイターに過度に執着し、実際に交流したことがないにもかかわらず友人として見なすことで、ネガティブな行動が生じる場合、それは「スタンカルチャー」と呼ばれる。
「スタンカルチャー」には、アーティストやクリエイターに過度に期待し、その過度な期待が叶えられない時に、アーティスト、クリエイター、プロダクション側に直接DMなどで脅迫めいた不平を言ったり、さらに悪い場合にはアーティストやクリエイターに逆恨みをし、彼らの過去の過ちを暴いて「キャンセルカルチャー」に持ち込むなどの行動が含まれる。また、自分がご執心のアーティスト、アイドルを否定した者をキャンセルにもちこむこともある。有名なところでは、2018年、ギリシャのテレビ番組で、K-POPアイドルは女性のような顔をしていると批判し、大炎上したことがあった。パネリストの一人が、K-POPアイドルのカン・ダニエルは「他のリストに載るべきだった」と、魅力的な女性のリストを指して発言し、SNS上で激しい批判を浴びることになったのである。
「スタンカルチャー」は、物理的にも精神的に一体感が強いK-POPコミュニティの負の側面であり、その大前提として正の側面があることももちろん忘れてはならない。先に挙げたカン・ダニエルの例にあるように、それは反レイシズムを促進する力にもなる。他にも2020年のアメリカ大統領選において、レイシストとみなされるトランプ元大統領の選挙運動をBTSARMYが妨害したことは、少なくともリベラルな陣営にとっては偉業とみなされうるものだったと言えるだろう。しかし、やはり「スタンカルチャー」にはどこか、好きなアーティストのためなら悪も辞さないような危うさがあるのも確かだ。
私たちは、アーティスト、過去の歴史上の人物、アイドルなど、様々な人物をロールモデルとみなし、彼らから学び、成長する。それは自然なことだ。だが、そのロールモデルも同じ人間であることを忘れてはいけないだろう。ましてやK-POPは、ジャンルレスなサウンドやさまざまな文化がミックスされた振り付けなど、さまざまな「違い」こそが創造性を生み出すカルチャーだと思う。偶像(アイドル)として同化する、要望に応えてくれることを期待するだけではなく、自分とは異なる他者として、執着よりまず感謝することが大切なのではないだろうか。そして、明るく照らす方法は違えど、自分もまた大好きなアーティストやアイドルと同様に、世界を明るく照らす存在であること、そのような存在になれることも忘れずにいたい。
西田海聖
いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。