5月27日、BTSとマクドナルドのコラボ商品「BTSセット(英語圏ではBTS meal)」が全世界49カ国で発売された。
ARMY(アーミー)と呼ばれるBTSのファンたちは、初日からマクドナルドに駆け付け、YouTubeやSNSにはセットをゲットしたという喜びの投稿が溢れた。かわいらしいBTSカラーのパッケージ、紫色の風船でデコレーションされた韓国やアメリカの店内は、まるで「BTS祭り」のような雰囲気。SNSのタイムラインには、すでにパッケージが不足していて普通の紙袋に入れられたというカナダのファンからのリポート、マレーシアではチキンナゲットの容器を保管するためにファンが洗浄して干しているというニュースが流れ、28日現在、すでにパッケージの転売が始まったことが報告されている。
そんなふうに世界各地でパーティー気分が盛り上がるなか、日本のARMYたちには、そもそもこのコラボ商品が日本では発売されない、という厳しい現実が突きつけられている。「なぜ?」という疑問や悲嘆、これらもまたtwitterやヤフコメに連投され続けている。
コラボ商品が発売された27日時点で日本マクドナルドでキャンペーンされていたのは、博多華丸(51歳)による「テリヤキバーガー」だった。ファンクラブだけで30万人とも50万人とも言われる日本のARMYたちはこの現実をどう受け止めればよいのだろうか。
しかも、twitter上でgiricoさんが鋭く指摘していたように、キャンペーン中のシャカシャカマックポテトてりやきマックバーガー味のパープルが完全にBTSカラーとかぶっているのが一層さみしさを誘う。
博多華丸に続き、28日に新たに公開されたキャンペーンはポケモンだった。
日本マクドナルドは、自社の50周年を祝い「幅広い年齢層に楽しんでいただける、日本独自のプロモーション・キャンペーン」を行うために、BTSのプロモーションを取り入れなかったという説が有力なようだが、博多華丸、ポケモンというラインナップは、たしかに複数の世代をターゲットにした狙いを感じさせるものではある。しかし、その起用タレントや作品を考えるならば、まずサラリーマン/中年層、次に子どもがメインターゲットになっていることは明らかで、要するに若者が後回しになっているように見えてしまう。こうした販売戦略が実際の利用者数などのマーケティング調査に基づくものだとしても、やはり残念だ。
またさらに重要な問題として、すでに多くの日本のARMYたちがネット上に書き込んでいるように、BTSはそもそも特定世代に限定されないアーティストであり、もしその点が誤解されていたのだとしたら非常にもったいない結果だと言えよう。BTSはさまざまな世代、ジェンダーを跨いだファン層を持ち、国境さえ超えて文字通りグローバルに支持されているため、もはやひとつの「社会現象(phenomenon)」(アメリカの人気トーク番組のホスト、スティーブン・コルベールの言葉)だと言われている。
マクドナルドUSAのマーケティング責任者のモーガン・フラットリー自身が「BTSはまさに世界の舞台を照らし、音楽を通じて世界中の人々を結びつけています」と述べているように、世界中にフランチャイズされ、全ての世代を顧客として抱えているマクドナルドにとって、BTSは最高のコラボレーターなのだ。マクドナルドとのコラボに関する国内記事のコメント欄には、「日韓問題」に基づくお馴染みの意地悪コメも散見されるが、ARMYたちはBTSのフィラントロピー(人類愛)に共鳴し、対立ではなく連帯を選ぶことだろう。
コラボが自国で発売されず悲鳴を上げているのは日本のARMYだけではない。4月19日にBTSmealが発売される49の国が発表された際、そのリストに含まれていない国のファンたちが続々とそのスレッドに悲しみを書き込んだ。
リストを見ると、北米以外の、いわゆる西欧の先進国の多くがこのキャンペーンに参加していないことがわかるが★1、「ボラへ(Ipurple you)」というメッセージが添えられたチキンナゲットが手に入らないARMYたちも、連帯の姿勢を崩さず活発に活動しているようだ。
フランスのARMYたちは、リストが発表された4月19日に即時にフランス・マクドナルド社に嘆願する署名活動を始め、31日現在、9,930人の署名が集まっている。イギリスのARMYに至っては、自国ではBTS mealが手に入らないにもかかわらず、この企画のお祝いとして、食品ロスを減らし、貧しい人たちに食料をシェアする活動を行うチャリティ「Fareshare」のために寄付を募っており、31日現在、1297ポンド(約20万円)の寄付が集まっている。
「イギリスではBTS mealは手に入りませんが、変化をもたらし、良いことをするためにエネルギーを使うことで、私たちのサポートを示すことができます」とUK ARMYはSNSに表明している。BTSが生み出したポジティブな連帯の連鎖は、さまざまな大人の事情を物ともせず、まだまだ途切れることはなさそうだ。
注
★1──北米以外は、先進国以外の地域、コロンビア、リトアニア、ベトナム、モロッコなどが選ばれている点が特徴的である。有名なファン・アカウント(@modooborahae)は、ツアーに行かない地域でこのキャンペーンを展開しているBTSの優しさだときわめて好意的な解釈をしている。
他方で、その選択肢にマクドナルド側のマーケティング的な戦略性を見る解釈もある。つまり発展途上国のほうがマクドナルドにとっても事業を拡大するチャンスがあり、その意味でも発展途上国で人気を誇るBTSが選ばれていると推測されている。